第2話

 幸いなのか、央佳の声は男性にしては高い。性別が変わってもあまり違いが分からない。

 同じく服の上からではあまり違いのない胸であったが……脱いで確認する。

『……少し膨らんでる……』

 明らかに男性の胸ではなかった。やはり下半身の同じく女性のもの。

 ……

 …………

 ………………

『……あっ、ダメだ……これ、変な気になる……』

 自分の胸とはいえ初めて見る女性の胸。興奮してしまう。

 さっと胸を隠してそのまま制服に着替えるのだった。


 外見的にあまり変化はない。こうやって教室に入っても央佳の変化に気付く者はいない。

 そう思っていたが……

 教室に入った雪柾と目が合う。

「雪柾、おはよう」

「おう……ん?」

 いつものように返事をした雪柾だったが、その表情が険しい。まるで喧嘩を売るかのように央佳へと詰め寄った。

「な、何? どうかした?」

「……お前……誰だよ?」

「だ、誰って、央佳だけど。桜井央佳。どうしたの、急に?」

「……ちょっと来い」

 そう言って雪柾は央佳の襟首を掴み上げた。そして周りの目など気にする様子もなく教室から央佳を引き摺り出すのだった。


 校舎の端、あまり使われる事のない非常階段。

「ちょっと離してよ!! 授業が始まっちゃうだろ!!」

「だから何で央佳のふりしてんだよ? 央佳はどうした?」

「央佳は僕だって!!」

「違うだろ。確かに似てるけどお前は央佳じゃない。顔も声も、似てるけど別人だ。お前は誰なんだよ、説明しろ。央佳はどこだ?」

 まるで今にも喰い掛かってきそうな怒気を含んだ表情。幼馴染の央佳でもあまり見た事のない雪柾。

 親ですら気付かない央佳の変化に気付く雪柾。だからこそ騙せないと思う。

「……雪柾。小学生の時に阿左見沼まで自転車で行ったの覚えてる? エロ本を探しに」

「なっ……あ、あったな、そんな事……」

 周りが木々に囲まれた小さな沼。小学生の時。そこでエロ本を拾ったという噂を聞き、二人は自転車でエロ本探しの旅に出た。

「だけど二人とも阿左見沼の正確な場所が分からなくて、自転車でグルグル回って、着いた時にはもう夜になってて。せっかく来たんだからって、それからずっと二人でエロ本を探してて」

「お前、どこでその話を聞いたんだ? 央佳からか?」

 央佳は首を横に振って話を続ける。

「それでまさか警察に通報されてるなんてね。結局、エロ本は見付からないし、めちゃくちゃ怒られるし散々だった。バカみたいな話だから二人だけの内緒の話にしようって決めたよね」

「……これを言うのは初めてだけど、俺はその時に央佳の秘密を見たんだよ。何だと思う?」

「……あの時……エロ本を見付けてて一人で隠して持ち帰った……雪柾、見てたんだ?」

「央佳はあの頃から巨乳のお姉さんが好きなんだよな」

「僕の趣味とか今はどうでもいいから。でも僕も初めて言うんだけど……あの時、雪柾もエロ本を隠して持ち帰ってたよね? 妹物だっけ。小学生の時点で妹物って、雪柾の将来が不安だった」

「いや、落ちてたのが妹物とウンコ物だったら、妹物を拾うよな?」

「ウンコ拾いなよ」

「違うの拾う感じになってるだろ、それは。でも…本当に央佳なんだな?」

「うん。本当に僕が央佳」

「でも……どういう事だ……絶対にお前は俺の知ってる央佳じゃない……」

 全てを話すべきか、秘密にすべきか。

 口に出した事はない。しかし二人はお互いを親友だと思っている。何か困った事態ならば絶対に手を差し伸べてくれる人間。

 これから央佳自身にどんな出来事が起こるのか予想できない。だったら信頼できる協力者が必要だ。

 だから……

「雪柾……僕……」

「……」

 雪柾は黙って、央佳の次の言葉を待つ。

「女の子になっちゃった」

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