彼氏か彼女か内緒の話

山本桐生

第1話

「ちょ、ちょっと待って」

 桜井央佳は同級生の女子より小柄な体格をしていた。顔付きも幼く中性的、高校生になった今でも女の子に間違われる。

 そんな央佳を真っ直ぐ見つめるのは不破雪柾。強面に加えて、同級生達よりも体格は大きい。

 幼馴染の同級生。

 雪柾は央佳へグッと迫る。

「男にも穴はあるんだよな……」

「……僕は……初めてだから……優しくしてよ……」

「……」

「……」

「本気かよ?」

「本気なワケないだろ。気持ち悪いよ」

「気持ち悪いのはお前だよ、何だ、『初めてだから優しくしてよ』って」

「雪柾が始めたんだけど」

「いくら央佳が女みたいでも無理だな。ああー彼女が欲しい。おっぱい揉みたい。揉みたいだろ?」

「もちろん揉みたいけど。揉みたくない奴とかいるの?」

 央佳も雪柾も男子高校生。もちろん女性の体に興味がありまくる年頃である。

 彼女だって欲しい。

「央佳なんか仲の良い女子とかいっぱいいるだろ? 一人くらい俺に興味ある奴とかいない?」

「いないよ。雪柾、不良だと思われてるし。まず見た目が怖い。デカくて存在が怖い。アホそうに見えて勉強できるのが逆に怖い」

 雪柾はその見た目のせいで女子から敬遠されているのである。ゆえに今まで彼女いない歴=年齢である。

「お前……俺と同じくせによく言えるな……」

 そしてそれは央佳も。

 央佳は見た目の愛らしさから女子にも人気が高い。だがそれはあくまで女友達と同じ感覚だった。男女の恋人同士までに至らない。

 そうして二人はくだらない話をしながら今日も過ごすのだった。


★★★


 どこからか声が聞こえる。

『ねぇ』

『……』

『桜井央佳くん』

 眠っていた央佳を呼ぶ女性の声。

『ん……誰……』

『聞いていたよ……恋人が欲しいのね?』

『……欲しい……』

 眠気に意識がまだハッキリしない。

『これはね、運が良かっただけなの。たまたま貴方達を見ていたら面白かったから。それだけなの』

『うん……』

 何を言っているのか頭に入ってこない。ただ反射のように返事をするだけ。

『だからこれは私からのプレゼント』

『……うん……』

『これで、もっと面白い貴方達を見せてね』

『……うん』

 そうして央佳の意識はまた闇の中に落ちていくのだった。


★★★


 パジャマ姿の央佳はベッドの上で背筋を伸ばす。

 何か夢を見ていたような気がする。でも内容が全く思い出せない。思い出せないなら、きっと大した事じゃない。

 まだ眠い。

 欠伸をしながらトイレへと入る。

 パジャマとパンツを下げて、自分のそこに手を添えて……

「ん? 何? 無い?」

 指先に触れるはずであろう感触が無い。

 ……

 …………

 ………………

「え?」

 無い?

「え? え? 無い? んんっ?」

 本来そこにあるモノが無い。まだ寝ぼけているのかも知れない。

 自らの下半身を見下ろす央佳。

 ……

 …………

 ………………

「あああああぁぁぁぁぁっっっ!!」

 そこに央佳の男性器は無かった。

 叫ぶ。

 心配した家族が飛んできて戸をドンドン叩く。

「大丈夫だよ、何でもないから!! 虫がいたんだよ、もう捕まえて流したから大丈夫!!」

 そう言って家族を追い返す。

『えっ、待って、何、何で? どうして? 病気? いやいや、でもそんな病気なんて聞いた事ない……』

 疑問はあるが尿意は抑えられないわけで。

 央佳は便座に腰を下ろす。

 チョロッ

 温かい液体が出る感触。

 チョロロロロッ

 我慢していたものが一気に流れ出る。

 そしてスッキリした所で再度確認をしてみるのだった。

 その結果。

「僕……女の子になってる……」

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