第8話
半年後、俺はめでたく退院した。学校に登校しても誰も声をかけてくれなかったが、紗季と先生だけは優しく迎えてくれた。あと樹。
フフ樹の扱い雑じゃない?それはおいておいて俺と紗季はもう一回デートに行くことにした。
「中山君お帰り」
隣の担任だった石原先生がいう。
「心配していただきありがとうございます。お見舞いもありがとうございました」
「いやいや、生徒が入院してたらお見舞いするのが礼儀だからね。ね田中先生」
隣にいた担任の田中先生に同意を求める。
田中先生はいやいやうなずいた。田中先生は石原先生にいやいや見舞いに連れてこられた。
いやいやだったけど、来てくれたのはうれしかった。
「佑樹!退院おめでと‼」
紗季が抱き着いてくる。クラスのみんなの目がきついな。
まぁこれでもよくなったほうだ。紗季がみんなに「佑樹が私を助けた」なんて言ってくれたおかげで。
「佑樹、改めておめでと」
樹が近くで俺と紗季を見守ってくれている。
鼻の奥がジーンとしてくるけど、俺は涙をこらえる。
気づいていると思うけど、俺は泣き虫だ。いろんなことですぐ泣いてしまうし、いじめられてた時毎日のように枕を濡らしていた。
「佑樹、明日、渋谷駅に十時ね」
やっと離れてくれた紗季がいう。
あ、そっか、紗季とデートに行く約束してたんだ。
「祐樹よかったな。あ、俺も行っていいか?」
「「え⁉ダメ!絶対ダメ‼」」
俺と紗季の声が被る。
「仲がいいね~」
樹がからかってくる。
えーと俺たちは恋人なわけで……
俺は九時半に新宿駅についてしまった。
「あ~あ早すぎじゃない?」
俺は腕時計を見ながらボヤいた。
「一回家に帰るか?……いや家まで十五分かかるんだよな~カフェは十時からだし……」
俺はホームの隅で頭を抱える。
まぁおとなしくスマホをいじればいいのかもしれない。
俺は座る場所をと思って駅を見渡した。
駅に設置されたベンチにはすでに座っている人がいた。
座る場所はないのか……
俺は改札の柵に寄りかかってスマホをいじる。今日何をするのかは知らない。紗季に何回か聞いたがしらばっくられた。
しばらくして紗季がやってきた。が、俺の記憶はそこで終わっていた。終わっていたのか樹に起こされたのかわからないが、紗季との二回目のデートのことはあんまり記憶がない。気づいた時には家のベッドの上だった。心ここにあらずでデートしたのか、それとも貧血か何かで倒れて紗季に運ばれたのかわからない。紗季に運ばれたとなるといやだな。
「……祐樹……祐樹!」
樹が揺さぶっている。俺はうっすりと目を開けた。
「アーサー⁉」
俺を揺さぶっていたのはアーサーだった。
俺が寝ていたのは病院の病室だった。
「起きたの?」
アーサーが恐る恐る聞いてくる。
「……さき?」
俺はそうぼやいてしまった。いや紗季のわけがない。でもアーサーが紗季に見えてしまった。疲れてるんだろう。俺が寝ていたのは病院のベッドだった。
私は岩屋紗季。祐樹が亡くなった後、あとを追うように祐樹が樹と飛び降りただろう崖へ向かった。で、気づいた時には男になっていたの。しかも奴隷の男の子。
あるご主人様の下でこき使われていたけど、私、いや俺は路頭に迷ってしまった。あの路地裏で仮眠しようとしていたがそこに来たのは祐樹と樹だった。樹は期待していた通り俺と違ってちゃんとした服を着ていた。が祐樹は俺と同じみすぼらしい服を着ていた。
私はショックだった。祐樹が奴隷だなんて。でもすぐに安心に変わった。樹と祐樹は友達のまんまで安心した。そして俺を連れ帰ってくれた。
でも祐樹も樹も俺が紗季だってことに気付いてくれない。それはしょうがない。だって年齢も違えば性別も違うんだからと自分自身に言い聞かせた。祐樹がさっき「紗季」って呼んでくれたのはちょっとうれしかった。このままの関係で正体を明かさないほうがいいのか、実は紗季って言ったほうがいいのかずっと迷ってる。多分今後も迷うだろう。
「さ……アーサー」
「どうしたの?」
「樹は?」
「廊下で待ってるよ。怖いんだって」
祐樹が手招きしてる。
俺はベッドの脇まで向かうと祐樹が頬を両手でつかんだ。
「ど、どうしたの?」
「アーサーだよな」
「え⁉」
「アーサーだよな」
祐樹の眼は本気だった。
「アーサーじゃないとしたら誰?」
「そうだよな。知らないと思うけど、さっき君にある人が被っちゃってね」
「だれ?」
「う~ん言っていいのかわかんないや。ごめんね」
「……そっか。樹、呼んでくるね」
俺は樹を呼ぶためにドアを開ける。
気づいたのかと思ったなー、ちょっと残念だな~
俺、中山祐樹は医者の先生の診察を受けている。どうやら学校から帰ってきてベッドで寝たけど起きなかったらしい。原因はわからない。
「とりあえず一週間入院していただいて、経過観察しましょう。ただ疲れただけだと思いたいですが……」
「えぇわかりました」
というわけで一週間暇になった。とりあえずスマホ見て、本とか漫画とか読んでやり過ごそうかな。
それにしてもさっきアーサーが紗季に見えた。いやでもアーサーが紗季なわけがない。
俺はこの世界に来てからいろいろと疑問を持っている。
そもそもこの世界は何なんだろう。日本語だし、街並みも日本っぽい。名前だって前世から変わってないし、周りの大人だってそうだ。でも「日本」という国ではないし、そんな国はみんな知らないらしい。
そしてなんで俺たちは転生したんだろう。それが一番の謎だ。
俺はスマホをベッドのわきに置いてまた眠りについた。
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