第7話

 夢を見ていた。紗季との夢だ。俺はあの時、暴走した自動車に轢かれた。幸い紗季は軽いかすり傷だけで済んだが俺は薄れゆく意識の中救急車で病院へ運ばれていった。多分紗季も一緒に乗ってたんじゃないかな。

 


 俺はうっすらと目を開ける。隣には紗季が座っていた。もちろん親は来ていない。さすがに息子が生死をさまよったら来ると思ったけど、来なかった。

「……紗季……!」

 紗季が顔を上げる。目が真っ赤だった。

「祐樹……大丈夫?」

「う、うん……」

「ほんと?」

「体の節々は痛いけどね」

 紗季は丸椅子に座りなおして俺のほうに近づいてきた。

「私を守ってくれて、ありがと。ホントにありがとう」

「そんなの恋人をもった男の使命だよ」

「なーに気取ったこと言っちゃってんのよ」

 紗季が俺の気持ちを軽くしようと、冗談めいたことをいう。

「俺は大丈夫だから早く家に帰りな」

「そんなわけにいかないでしょ?」

「それもそうだけど、親御さんが心配するじゃん」

「そっか。じゃ、また来るね」

 紗季はカバンをもって去っていった。さっきは見えなかったけど、紗季の服、俺の血でベトベトだった。そんなことに気づけなかった俺は、めっちゃ悔しかったのを覚えている。悔しいとしか言いようがない。何かに例えようと思ったけど例えることができない。

「しょうもない奴だよ。俺は」

 俺はそうつぶやくと意識を失った。



 次に目を覚ました時にもまた紗季がいた。学校帰りなのか制服姿だ。しばらく俺が目を覚ましたことに気づいていなかった。

「起きたの?」

 紗季は恐る恐る聞いてくる。

「あぁ。心配かけてほんとにごめんね」

「私は大丈夫だからゆっくり休んで」



 俺が事故にあってから数週間が経った。何週間だったかは覚えていない。俺はICUから一般病棟へ運ばれていった。紗季は毎日のように学校帰りに見舞いに来てくれた。

「退院したら一つやりたいことがあるんだ」

 俺は紗季に言った。

「何?」

「もう一回ちゃんとデートしよう」

「いいわよ。でも勉強はそれぐらいにして、ゆっくり休んでね。勉強漬けだったでしょ?」

 紗季はそう言って数学の参考書を俺から取り上げて、「また来るわね」と病室を出て行った。



 半年後、俺はめでたく退院した。学校に登校しても誰も声をかけてくれなかったが、紗季と先生だけは優しく迎えてくれた。あと樹。

 フフ樹の扱い雑じゃない?それはおいておいて俺と紗季はもう一回デートに行くことにした。

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