第6話

 今日は嫌で嫌で仕方がない、テストの日だ。もちろん学校に行くからきれいな服を着ている。あの後樹は必ず外出するときは俺たちを連れていくことにしていた。ご主人様も大変だ……

 もちろん勉強はした。多分、樹よりもした。アーサーはまだ十歳だからなのかテストはないらしい。樹が言っていた通り、いじめはなかった。勉強は難しいけど(大学レベル)わかりやすいし何しろいじめがないからとっても居心地がいい。この世界に生まれてきてよかった。

「ど~した?まだ前世のこと引きずってんのか?」

「そんなところかな」

「そんなもん忘れちまえ」

「それもそうだね」

 忘れたくても忘れられないんだけどね。誰にも話してなかったが俺には恋人がいた。両想いだったと思う。名前は岩屋紗季。幼馴染の腐れ縁だった。


 告白は高校一年生のバレンタインだった。放課後、学校裏に呼び出され、チョコを渡された。その時はまだ、幼馴染だから渡す友チョコとしか思っていなかった。

 家に帰って包みを開けると中にはチョコと手紙が入っていた。チョコはいつものように紗季の手作りだった。

 チョコを食べた後手紙を開く。

『中山祐樹君へ

 友チョコだと思ったでしょ。おいしかった?

 実はね祐樹に伝えたいことがあるんだ!

 私ね、ほんとはずっと前から祐樹のことが好きだったの

 直接伝えるのが恥ずかしくて、こういう形になっちゃったけど

 許してくれる?

 岩屋紗季』

 数行の短い手紙だった。俺はそれを何回も読み直した。でも何も理解することができなかった。言葉はわかるのだが、言葉が脳に届いていなかった。

 次の日改めて話したいことがあるといわれレストランに呼ばれ、

「好きです‼付き合ってください‼」

 と一気に言われた。もちろん俺は快くOKしたんだったと思う。それから俺たちは付き合い始めた。

 初めてのデートはちょっと離れたショッピングモールに行った。

「楽しみだね」

「えぇどこ行きたい?」

「最近公開されたアニメの映画みたいな」

「え?私も見てみたかったんだ!」

 ということで、俺はスマホで映画のチケットを二枚買った。もちろん一番見やすい席で隣通しだ。

「映画までちょっと時間があるからレストランにでも行こ。何食べる?」

「私、スパゲッティーがいいな」

 イタリアンの店に入ってスパゲッティを注文する。


「どうした?紗季のことでも考えてたのか?」

「そんなんじゃねーよ」

 樹の言葉で急に現実に引き戻される。

 俺の顔はすごく赤い。


 スパゲッティを食べて映画館に向かう。

「楽しみね」

「ほんと楽しみ。あの二人、告白できるのかね」

「ふふ。それは楽しみ」


 映画館でポップコーンとドリンクを買う。こういうので趣味が分かれそうだな。



「面白かった~。やっぱり告白できなかったね」

「そうそう。感動を返せって感じ」

 そのあと俺たちは服屋に向かった。そこでコラボTシャツを二人でプレゼントしあったりした。でも悲劇は帰りの道中で起きた。


「紗季!そっちじゃないよ!」

「え?」

 紗季が振り返る。さっきからしていたパトカーのサイレンが大きくなってくる。暴走自動車が俺そして紗季のほうに突っ込んできた!俺はとっさに紗季を突き飛ばす。


 何があったんだろう。紗季が泣いている。俺に縋り付いて号泣している。体は……動かない。


「……うき……佑樹……佑樹!」

「……ん」

「どうした?顔が青いぞ?テスト、別日にもできるよ」

「すいません。ちょっと気分が悪くて、明日でもいいですか?」

「もちろん。じゃ明日十時に同じ教室にきて。保健室で休んでいるといい」

 俺は筆記用具を片付けて保健室に向かった。




「佑樹!帰るぞ!どうした?何か嫌なことでも思い出したか?まさか、紗季のこと」

「そうだよ……あの時俺がしっかりリードしてば……」

「でも君も紗季も無事でよかったじゃん」

「そうだけど」

「さっ紗季のことを忘れろとは言わないけど、あの事故のことは忘れろ」

「そうだね。でもトラウマになってるかもしれない」

「じゃあそれを超える楽しいことをやってやるから期待してろ!」

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