第5話

 今日は学校が休みだ。だから俺とアーサーはいつものぼろぼろの服を着ている。

「えーと、言いにくいんだけど、今日俺、これから買い物に行かないといけなくて、二人は留守番してほしいんだ」

「え⁉」

 アーサーが見せたこともない怪訝な顔をする。留守番がそんなに嫌なのか?

「で、奴隷だけになるときって奴隷を拘束しないといけないんだって」

「え⁉」

「勝手なことされるとダメなんだって」

 樹はそう言って箪笥からロープをたくさん取り出した。


 俺たちは樹に言われるがままベットの上で一人ずつ縛られていった。

「口開けてくれる?」

 上から下までガッチガチに縛られ動けなくなった俺に樹はそういった。

「さるぐつわ、しないといけないんだ。ごめん、ほんとごめん」

「別にいいよ。いじめられてるわけじゃないんだし」

 俺は素直にさるぐつわを噛み、目隠しも受け入れた。もう何もできない。なにも見えないし何もしゃべれない。


 「夕方には帰るから」

 と樹は部屋を出て行った。


 もがいてみたけどびくともしない。

 あきらめるしかないか……

 俺の後ろにいるはずのアーサーの息の音が聞こえてくる。それぐらいに静かだ。


 時間感覚がくるって今何時か、どれぐらいたったかわからないけど、アーサーが寝てしまったようだ。俺の背中に寄りかかって「スースー」と寝息を立てている。

「!……」

 誰かが入ってきた⁉何も見えないけど気配で分かった。

「二人もいるぞ‼」

「……む⁉(え⁉)」

 俺は持ち上げられ、おそらくスーツケースの中に押し込められたと思う。抵抗しようと思ったけど、できるわけもない。アーサーがさるぐつわ越しにわめく音が聞こえてくる。やがてスーツケースは動き始めた。絶対に樹じゃない。何人なのか男なのか女なのかわからない。こんな感じだけど、めっちゃくちゃ怖い。恐怖を隠すためにこんなに考えている。

 

 多分車に乗せられた。がたがた道を通っているようですごい揺れる。……酔う。


 しばらく走った後俺たちは降ろされ地下へ連れていかれた。

 スーツケースから出されて椅子に座らされた。目隠しが外される。目の前には鞭をもって目元まで布で隠した男が四、五人いた。俺の横には今にも泣きそうなアーサーがいた。

 俺の腹に鞭が当たる。男たちは何もしゃべらない。それがもっと怖い。


 しばらくするとドン!ドン!と誰かが階段を下りてくる。バン‼とドアが開くとドアの近くにいた男が飛び蹴りで失神していた。

 樹だ。樹って空手、やってたっけ。樹は空手で男たちを失神させていく。


 全員が失神すると樹は俺たちのほうに駆け寄って俺とアーサーを引き寄せ抱いてくれた。いろんなものに耐えられなくなった二人は泣き出した。樹は俺たちを苦しいほど抱いてくれる.

「ごめん、ほんとに」

 樹はすぐに俺たちの縄を解いてくれた。

「二人とも無事でよかった」

 アーサーが樹に飛びつき、嗚咽が出るほど泣き出した。樹はアーサーの頭を優しくなでる。

「祐樹に二回もこんな目に合わせて……次から一緒に出掛けような。どんなことがあっても。絶対!」

「絶対だからな」

「あぁ。…………さぁ帰るよ」

 俺たちは樹と一緒に家に帰る。アーサーは疲れたのか、安心したのか寝てしまった。しかも樹の背中で。

 あとから考えるとアーサーはこの一件で樹に慣れたのかもしれない。

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