第3話

 俺、中山祐樹は樹に連れられて近くの市場に来ていた。

 もちろん俺は友達ではなく奴隷だ。手錠と足枷を付けられ首輪のひもはふんぞり返っているようにしか見えない樹が握っている。足枷は三十センチほどしかなく、いつもよりも歩く速度はとても遅い。たびたび俺の背中に鞭が当たる。

「早く歩けよ‼お前なんてほんとはいらないんだよ‼」

 「俺は奴隷なんだ」と頭の中で何度もつぶやく。後で仕返ししていいって言ってたけど、俺にそんな勇気はない。

 通り過ぎの人は俺のことを物珍しそうに眺めている。中にはニヤニヤしながらスマホで写真を撮る者もいた。俺の顔は恥ずかしさで真っ赤だろう。


 俺の首がグイグイっと引っ張られる。はい、はい。そっちじゃないのね。樹のほうへ向かうと

「ほい」

 とスイカを持たされた。俵型のジャンボスイカってやつだ。またグイグイと引っ張られる。わかりましたよ、ご主人様。

 当然だろう。さっきよりもずっと歩くスピードは遅い。でも樹は執拗に縄を引っ張った。……んだよ。そっちにゲーム機でも落ちてるのか?


 樹に連れてこられたのは路地裏だった。そこには俺と同じ服装の子供が座っていた。年は十歳くらい。がりがりに痩せている。

 ちょっと色黒で、刈り上げられた黒髪。青い目が知能的な感じを出していた。

 樹はその子の横に俺を座らせて手錠を取ってくれた。

「どうしたの?君も奴隷かい?」

 俺は優しくその子に質問した。

「……そうだよ。君は?」

 ちょっと警戒しているようだ。

「俺は…中山祐樹」

「俺はアーサー」

「で、こいつが俺のご主人様だよ……」

「こいつって聞こえてるからな。俺は山本樹」

 アーサーは祐樹からちょっと距離を置く。

「そんなに怖がらなくても…俺は君の見方だよ。実は祐樹とは友達なんだ」

「そうなの?」

 アーサーは俺のほうを向く。

「そうだよ。もちろん俺も君の見方だし」

 アーサーはちょっと考えた後、俺に抱き着いた。俺が頭をなでるとアーサーは泣き始めてしまった。

「多分、ご主人様に見放されてしまったんだよ。寂しかったな。でも俺たちがついてるからな」

「そうだ。俺たちと一緒に帰ろう」

 アーサーはコクンとうなずいた。

 俺はアーサーを背負って家まで連れて帰った。家に帰る途中に寝てしまったらしく、「スースー」と寝息を立てていた。

 俺は樹のベッドに彼を寝かせた。


 しばらくしてメイドさんがフレンチトーストを持ってきた。三人分あったが全部アーサーにあげることにした。正直、お腹もすいてなかったし。

「アーサー?起きて!」

「う~ん……」

「ご飯だよ」

 アーサーはその声に飛び起きた。

 机に並べられたフレンチトーストを手づかみで食べ始めた。


 半分ほど食べたところでアーサーは手を止めた。俺たちが食べてないのに気付いたらしい。

 俺と樹の顔を交互にキョロキョロと見る。

「全部食べていいよ」

「俺たちお腹すいてないから」

「いいの?」

「いいよ。お腹すいてたよね」

「あと食べるときはフォークとナイフ、使おうか」

「……あっ」

「アッハッハッハ」

「何がおかしいんだよ‼」

 アーサーが樹につってかかる。

「ごめん、ごめん。あまりにもかわいくて」

 アーサーはむすっとしながらもフォークたちを使って食べ始めたのだった。顔、ちょっとだけど、笑ってない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る