第2話
俺は「着てね」と渡された服を見て愕然としてしまった。俺はあの後樹と一緒にベッドで夜を明かした。今は心中した時に来ていた高校の制服を着ていた。樹はというといつ着替えたのかわからないが、半そでのラフなパーカーを着ていた。多分先に転生して着替えたのだろう。
渡されたのはぼろぼろに使い古された白のTシャツとまたしてもぼろぼろの黒のショートパンツだった。
「ごめん。この国の決まりで、奴隷の子はこれをというか、これしか着れないんだ。お願い!我慢して!」
「……しょうがねぇな~」
俺が制服のボタンに手をかけると樹は寝室を出て行ってくれた。
俺の学校はブレザーだった。上着を脱いで、ネクタイを外し、Yシャツを脱ぐ。
「すっかり、見た目は奴隷だな」
「まぁまぁ俺が必ずどうにかしてやるよ
樹がこっちにむかって歩きながらかっこいいことを言ったと思った次の瞬間……
痛って‼」
飛び出していた梁に頭をぶつけた。
「アハハっ‼」
「何がおかしいんだよ」
頭をさすりながら自分も笑っている。
「次は助けてやんねーからな」
「んなこと言うなよぉ」
「冗談冗談」
「んなら言うなって」
俺は樹を軽く小突く。
そうこうしている間にメイドさんが僕たちの朝食を持ってきてくれた。
そのご飯を見て俺はまたしても愕然としてしまった。
樹と俺の食事の差だ。樹の朝食はベーコンエッグやトーストが乗っていて、The朝ごはんっていう感じだ。それに比べて俺はというと冷めたトースト一枚。いやトーストじゃない。焼かれていなかった。
もうあきらめて食べ始めようとすると樹が黙って自分のトーストと僕のトーストを変えてくれた。それだけでなく目玉焼きもくれた。
「多分俺よりも君のほうが大変だからね」
ありがたくもらって食事を始めた。
「一応君は僕の専属の奴隷だから僕とか使用人の前ではいつも通りでいいよ」
「……うん。じゃあ服をどうにかしてくれ、せめてもうちょっとあたらしいやつを」
「確かに準備しとく。で俺の今の家族の前では、悪いけど俺をご主人様にしてくれないかな。君が起きた時の時みたいにさ」
「かなりいやだけど、あの父親じゃ仕方ないね。わかったよ」
「よかったありがと」
「そういえば俺のスマホが見当たらないんだけど」
「あぁベッドわきの机に充電してあるよ」
「ありがと」
その日は特にトラブルが起こることがなかった。俺はずっと樹の部屋に引きこもってスマホをいじったり、持ってきてくれた本を読んだりしていた。
俺、山本樹は目を覚ました。隣で佑樹が寝ているはずだ。
手探りで佑樹を起こそうとする。
「あれ?佑樹…………いない⁉」
俺の隣に佑樹はいなかった。
俺は慌ててベッドの下とかトイレとかを探した。
「どこにもいない……」
心配しすぎなだけかもしれないけどやっぱり心配だ。
「あ!スマホだ‼」
佑樹はスマホをいつもズボンのポッケに入れていた。あのシートパンツにも確かポケットがあったはず。彼のスマホと俺のスマホはGPSを共有していたはずだ。
地図アプリを開いて佑樹の現在地を検索する。
「……え⁉」
表示されたのは奴隷の売買場だった。……これから佑樹売られちゃうのかよ~⁉
俺は慌てて洋服掛けにかかっていたカーディガンだけ取って売買場へ走って向かった。まだ日の出直後で回りはまだ暗い。
「す、すいません」
「おっ兄ちゃんどうした?」
守衛のおじさんが陽気に答えてくれる。
「えーと俺の家の奴隷が勝手に出品されてると思うんです」
「それは大変だね。えー名前を教えて」
「中山佑樹です」
「えーと……あっ今日出品する予定だよ」
「返してくれませんか?お願いします‼」
と守衛のおじさんに頭を下げる
「よっぽどあの子がお気に入りなんだね」
……お気に入りって。まぁ確かに友達だけど……
「連れてくるからちょっと待っててね」
おじさんは奥に行って見えなくなってしまった。
「早く来い!早く来るんだよ‼」
奥からさっきのおじさんの厳しい声が聞こえてくる。……やっぱりこの人も普通の人と奴隷では態度を変えるんだ……
しばらくしておくから後ろ手に縛られて鞭の跡が何か所もある佑樹がさるぐつわをかまされ首輪を引っ張られながらやってきた。
佑樹は俺を見て安心したようだ。目から伝わってくる。
「でも……すっごい悪い気持ちになる」
俺は守衛さんから首輪の縄をもらうと強く引っ張りながら家へ帰る。後ろ手で拘束されててしかも首輪で引っ張られているのですごい歩きづらそう。佑樹は混乱の目をしている。
俺は頭の中で「ごめん!ごめん‼」と叫びながら家へ帰った。
(ごめん!人前だと奴隷になってくれないか……)
自分の部屋に行ってまずはさるぐつわを外した。
「……ぷはっ。樹~助けてくれてありがと~」
「別に……君がいないと俺も寂しいし」
首輪と手首を縛っていた縄を外す。
俺は頭を下げる。
「ごめん。さっきは混乱したよね」
「いいよ。大丈夫。人前では俺が奴隷なんだよね。そのためのこれだし」
佑樹はぼろぼろのTシャツをつまんで見せる。
よかった。無事でよかった。
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