心中する。そして奴隷になった。
鮫島楓
第1話
疲れた……
俺は中山祐樹、高校三年生だ。学校も塾も受験もどうでもよくなってしまった。学校ではいじめられ、塾では「お前なんかに受かるわけない」って言われ……偏差値とか模試の結果的には受かるはずなんだけど。隣に俺みたいに疲れたやつがいる。山本樹。同じ高校三年生だ。
「……樹、大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
「全然大丈夫じゃなさそうだな」
「それは君も同じじゃない?」
「そ~だな。家にも学校にも逃げ場がないってこういうことかな?」
「どこか安心できる場所、ないかな」
俺たちはホームセンターでロープを買っていた。そのあと向かったのは崖だった。崖の下には荒れた海が広がっていた。ロープで自分の右手と樹の左手をつなぐ。
「これで楽になれるな」
「まぁ転生とかあるかもよ」
「その時はよろしくね」
「もちろん」
俺たちは海に飛び込んだ。
俺たちの亡骸は近くの浜に上がった。崖の上にあった簡単な遺書と、結ばれた俺たちを見て、警察は自殺だと判断したらしい。
俺は目を覚ました。……体が動かない。首を曲げて体の下のほうを見る。体が縛られていた。
ベッドがあり、シャンデリアがあって机がある。
俺の目の前には恐らく樹であろう人物が立っている。俺は優希に言う。
「ま、樹!」
「ああ、起きたか?お前は俺の奴隷としてこれから働いてもらうぞ。俺はお前をこき使ってやる。お前は俺のために働けばいいんだ!わかったな?」
樹の目が何というか終わっていた。
「ふざけるなよ!なんで俺がお前のために働かないといけないんだよ!ふざけんなよ! 」
「うるさいな、奴隷は奴隷らしくご主人様のいうことを聞けよ。ほら、早く飯を持ってこいよ」
「嫌だね!なんでお前のために働かないといけないんだよ!ふざけんなよ!俺はお前のために働かないぜ!」
「おい、そんなに反抗的だと痛い目にあうぞ?いいのか?俺は貴族だぞ?お前は俺に逆らえないんだぞ?」
「ふん、そんな脅しが効くかよ。俺は絶対にお前の言いなりになんかならねえぞ!」
「ちっ、仕方がないな。おい、やれ」
すると部屋の中に男たちが入ってきた。俺は恐怖に震えるが抵抗することはできない。
「や、やめろ……来るな……!」
俺は男たちに殴られた。縛られているので自分をかばうことさえできない。
「ぐはっ……!ゲホッ……!ううっ……助けてくれぇ〜……!!誰か助けてくれぇ〜!!」
俺の叫びはむなしく響いた。助けは来るわけもない。
「どうだ?反省したか?これからは俺の言うことをちゃんと聞くんだぞ?わかったな?」
「はい……わかりました……ご主人様……」
俺はいやいや樹のことをご主人様にすることにした。
「わかればいいんだ。ほら、ご飯持ってきてやったぞ。ありがたく食えよ。」
俺は泣きながら冷めたご飯を食べたのだった。
俺がご飯を食べ終わったころ樹がやってきた。さっきとは違う。優しさに満ちた目をしている。口調も優しかった。
「……さっきはごめん」
「…………」
「お父様の指示なんだ。でも君の管理は僕の一存だから安心してね」
「……わかった」
ここで拒否ってもどうにもならないことぐらいわかる。
「とりあえず、縄を解くわ」
「ありがと」
樹は慣れた手つきで俺を拘束していた縄を解いていった。
「はぁ……疲れて死んだのに、こんな思いをしないといけないなんて……」
「お互い様だよ。俺も俺の今の父親が俺が気に食わないこと言ったらすぐに殴られるから」
「多分気楽なのは君だよ……」
「貴族の子供って色々と気を遣うんだよ」
ガチャっとドアが開く。手に鞭をもった傲慢そうな男性が入ってくる。
「おい!おい‼誰がなれなれしく話していいって言った⁉」
ビシ‼
俺のすねに鞭が当たる。
俺はとっさに土下座をした。許してもらえるかわからないけど、本能的に土下座した。
「え⁉」
俺の上に樹が俺をかばうように俺の上にかぶさった。
「どけよ‼早く‼」
樹に何発も鞭が当たる。
鞭の雨が終わっても樹は俺を苦しいほど抱いてくれた。
さっきの男が去ったあと俺は土下座の姿勢のまま泣いた。
「おいおい…泣くなよぉ」樹が困惑顔でこちらを見つめてくる。それでも俺は泣き止むことができなかった。
小一時間ほどたった今でも俺は鼻水をぐずぐずしている。目は真っ赤だ。俺が落ち着くまで樹は俺のそばで優しく頭をなぜてくれた。それでまた涙がこみあげてくる。
「大丈夫か?」
「……うん。ありがとう……君と…樹と一緒なら奴隷でも大丈夫そう」この世界なら二人でしっかりと生きていけそうだ。
「そっか。それならよかった」
今度は俺が樹を抱きしめた。
二人でまた泣いた。転生してよかった。
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