第14話 ノッポは考えた デブは舞い、ロン毛は失われると
状況は絶望的だ。
魔獣一匹とはいえ、ここに居るのは戦闘経験の浅い見習い四人。さらに言えば、彼らは武器どころか防具すらも身に着けておらず、唯一の頼みの綱は一人一つずつ支給されたレザーシールドだけ。
こんな状況で民間人を助けなければいけない。それが、自分たちの役割だから。
「さて、作戦だが――」
いつだって逆境を覆すのは作戦だ。敵の裏をかき、戦場を有利に動かし、勝利へと近づくための作戦。提案者となるポーノは、視線をサソリのような魔獣から逸らすことなく作戦を告げた。
「この作戦の要はお前だブディール。まずはその盾をロッゲに渡せ」
「なっ……俺に死ねってかよ!」
「俺を何だと思っている!」
さて、最後の命綱を渡せと言われれば、流石のブディールも文句を言う。まさか嫉妬に狂ったポーノが、この機に殺しに来たのではと勘ぐってしまうが、流石に違うか。
普段の行いを考えると、そうとしか思えないけれど。
「俺のデータじゃ、お前の運動神経がこの中で最も優れている……お前が囮になって、奴の気を引くんだ!」
この一週間に行われてきた特訓。その中で、走力と持久力の項目に置いて、ブディールは頭一つ抜けた成績を収めていた。
「だ、だが……一回でも攻撃を喰らったら……」
「そこで俺たちだ。避け切れない攻撃を、俺とロッゲで防ぐ……もちろん、そう何度も引き受けれない。だから、これはあいつの攻撃を何度も避けられる足の速い奴が必要なんだ! お前じゃなきゃできない! お前しかいないんだ!」
「そこまで言うならば任せるがいい!」
お前にしかできない。その魔法の言葉を聞いてしまえば、二つ返事でブディールは囮を引き受けた。計画通りとポーノがほくそ笑む。
「そしてハイリ。お前があの女性を助けろ。お前の怪力なら、人一人運ぶぐらいなんてことないだろ」
「なら、盾は邪魔だな」
「おう、安心して俺に渡せ」
彼らの第一目標は、魔獣の奥の方で蹲る女性の救出だ。病人と思しき彼女は、娘を逃がしたはいいものの、その場から動けていない。
魔獣の横を抜けて、彼女を助け、安全地帯まで運ぶ。そのためには片手が塞がる盾はいらないため、ブディール同様ハイリも盾を手放した。
改めて作戦を確認しよう。
「ちなみに、具体的にはどうやって気を引けばいい?」
ブディールが魔獣の気を引くことがこの作戦の肝だ。
「風の貴公子様の御威光頼りってところだ」
「ここは一つ、男らしくあいつの顔でも蹴っ飛ばしてきたらどうだ貴公子さんよ。骨ぐらいは拾ってやるぜ」
そして、どうしてもブディールが避け切れない攻撃が来たときは、先ほどハイリを三人がかりで守った時のように、両手に盾を持ったポーノとロッゲが対応する。
「逃げ先は考えてくれよ。こっちに運んでる最中に魔獣を近寄らせんな」
そして、彼らが気を引いている隙に、ハイリが奥で蹲る女性を助ける。
魔獣を倒す必要はない。民間人が避難できるまでの時間稼ぎ。それが、彼らの役割である。
「よし、作戦開始だ!」
「オラァあああああああ!!!」
そうしてまとまった作戦が始まった瞬間に、ブディールが飛び出した。ブルンブルンと腹回りのぜい肉を揺らしながら走る彼は、しかし予想に反して瞬足である。
その姿はまさに風のようで、彼が嘯く風の貴公子の二つ名は、案外伊達ではないのかもしれない。
「そう言えば奴には伝えていなかったが……」
「なんだ?」
魔獣へとブディールが走り出したところで、ぽつりとポーノが呟いた。
「魔獣も肉食。脂ののった獲物の方が好みだろう」
「間違いないな」
聞いていたのはハイリだけだが、何とも酷い評価である。ただ、ポーノのその思惑は正しかったのか、それとも自分に突っ込んできた小虫が煩わしかったのか、ブディールは一番最初の標的として、見事魔獣の注意を引いた。
「どうとでもなりやがれ!!」
さて、近づいたこともあってか向けられたのは尾ではなく鋏。魔獣が持つ巨大な鋏である。鎌のように歪曲した刃は、挟む必要すらなく人体を両断できそうな鋭利さだ。
喰らってはひとたまりもないとわかり切っているブディールは、水平に構えられ鋏を前にして跳躍した。
動けるデブ、舞う。
更にブディールは跳躍の勢いで水平に構えられた鋏の上を足場にしてもう一度跳躍。
そして――
「喰らえ!」
[ギィ!!]
空を舞ったブディールの肉厚な蹴りが、強かに魔獣の顔面を打ち据えた。
しかし、結果は芳しいものではない。まるで岩を蹴ったような感触だ。
「痛ってぇ!」
むしろ、蹴ったブディールの方がダメージを負っている始末である。
「あの馬鹿……!!」
痛みを叫んで地面に転がるブディールのなんと無様なことか。ただ、無様なだけならいい。
だが、生憎とここは戦場で、相手は魔獣。ひとたび隙を晒してしまえば、そのまま死に直結しかけない――
「おい、早々に俺たちの出番を作るんじゃない!」
「逃げに徹しろ!」
地面に転がるブディール目がけて振り下ろされた二本の尾による攻撃を、間一髪でロッゲとポーノの二人掛かりで防ぎきった。
二つの盾で二人掛かり。合計四つのレザーシールドが軋む。手が痺れる。盾を使って攻撃を防いだはずなのに、体が悲鳴を上げている。
それでも、魔獣の尾に着いた針を一本も通さないレザーシールドの性能に感謝した。万が一とはいえ、命を守ることができるのだから。
「くっ、悪い……」
「謝るんじゃねぇ! お前だけが活躍するのが気に入らねぇだけだ!」
「早く立ち上がれブディール!! お前とおんなじ墓場にだけは入りたくないからな!!」
謝ろうとするブディールには、ロッゲとポーノの叱責が飛ぶ。晒した無様に対する糾弾などあとからいくらでもできる。今はただ、互いに役割を全うするべきだ、と。
ブディールが立ち上がったのを確認したところで、二人は急いで後ろへと下がった。
じろりと、逃げ出した二人の方へと魔獣の意識が向くが……それでも、魔獣はすぐ近くにいるブディールへと意識を向けた。
ブディールにしろロッゲ達にしろ、邪魔であることには変わりない。ただ、魔獣は直接攻撃してきたブディールを優先した。そこにいったいどんな優先順位があるのかはわからないけれど、ブディール以外が狙われたときのことを考えていなかったポーノは、自らの未熟な作戦の穴に気づかされつつも、ほっとその未来が来ないことに安堵する。
「くっ……来いよ!」
[ギギギ!!]
不快感を伴った魔獣の攻撃は続く。それをブディールが避けて、避けて、避けて――
「今だ――!!」
魔獣の意識が完全にブディールの方へと向いたその瞬間を、ハイリは見逃さなかった。
それはかつて、狩人を生業としていた彼の祖父から受け継いだ技の一つ。獲物の動きを見て、呼吸を計り、隙を見出す技。
祖父の技に吐くような不快感を伴いながらも、此方への意識が外れた間隙を縫うようにしてハイリは魔獣のすぐ横を通り抜けた。そして、ハイリは蹲る女性の元へとたどり着く。
「大丈夫か!?」
「あなたは……」
「避難誘導の警備隊だ! 今、助けに来た」
「あ、あ……む、娘は……娘が向こうに!!」
「安心しろ! 娘さんは既に助けてる!!」
「本当ですか……!?」
自分よりも娘を大切にする母親の姿を見て、ハイリの心臓がズキリと痛んだ。
それでも、今は彼女を避難するべきだ。そう思考を切り替えて、彼は蹲る母親を担ぐ。
「チッ、戻るにゃ来た道を通るしかねぇのか……」
外壁付近の住宅街ということもあって、大通りから逸れる小道はいくらでもあるはずだった。しかし、並ぶ住宅を魔獣が破壊して回っていることもあり、見える限りの道を瓦礫が塞いでしまっている。
安全地帯に行くためには、来た道を戻るしかない。
だが、果たしてもう一度、何事も無く魔獣のすぐ横を通り抜けられるような都合のいい隙が生まれるだろうか?
魔獣は通りを塞ぐほどに巨大だ。無論、人一人が通れる隙間がないわけではないが……気づかれてしまえば一巻の終わり。病人を抱えたまま魔獣の攻撃を避けることなんてできるわけがなく、病人ごと儚く命を散らすことになるだろう。
「……待ってる時間はない、か」
だからと言って、ここに留まっていられる時間は長くない。魔獣が通りに現れてからずっと、振り回される尾や鋏によって周辺の建物が破壊され続けている。
ここに来て初めて気づいたことだが、ハイリ達のすぐ近くの建物が倒壊するのも時間の問題だ。
だからこそ、迷う。
進んで魔獣に殺されるか、待って倒壊に巻き込まれるか。リスクを負わねばいけぬ今、自分はどうするべきか――一人の命を背負ったハイリは、
「俺を守りやがれお前ら!!」
叫んだ。
「あいつ……!!」
「もっと静かに移動しろってんだよ!!」
なかなかに高圧的な物言いだが、ハイリが言わんとすることはすぐにロッゲ達へと伝わる。以心伝心……というと、彼らはいい顔をしないだろう。それでも、この二週間を共に過ごした彼らだからこその意思疎通がここにあったことは、言うまでもない事実だ。
ともあれ、ハイリは走り出す。
相手の隙も何もあった物じゃない。当然、彼が走り出したことに魔獣はすぐ気づいた。もちろん、魔獣にとって人間は敵。優先順位はともかく、向かって来るならば殺すだけだ。
[ギギギギッ!!]
尾がハイリを殺さんと振り上げられる。
ただ、それがハイリを打ち据えることはない――
「ナイスだロッゲ、ポーノ!」
「この借りは高くつくぞハイリ!」
「俺のデータによれば……げ、限界が近いから、な……!」
期待に応えて、その攻撃をロッゲ達が見事に防いだからだ。おかげでハイリは魔獣を抜けて、安全地帯へとたどり着くことができた。
そこで女性を降ろす。
「おかあさん!」
すると、近くに隠れていたのだろうか。逃げたとばかり思っていた青髪の娘が飛び出て来た。
「マヤ!」
「おかあさん! よかった、生きてたぁあああ!!」
ボロボロと涙を流して抱擁する二人。もう二度と会えないと思っていたばっかりに、その感動は計り知れない。
「悪いが、ここも安全とは言い切れない。だから急いで避難場所に移動してくれ」
「は、はい。本当に……本当にありがとうございます……」
「礼は良いから、早く逃げてくれ!」
ただ、悠長に再会を喜んでいる時間はない。なにしろ、安全地帯とはいえ魔獣から少し距離を離しただけで、ロッゲ達がやられてしまえば奴はすぐにこちらへと襲い掛かってこれる距離だからだ。
だからハイリは、一メートルでも遠くへと親子を逃げさせる。
「おい、お前ら! あと少し時間を稼いでから逃げるぞ!」
任務は完了した。それに、これだけ派手に魔獣が暴れれば、如何に避難が遅れていようと、住民たちは近寄らないだろう。
あとはあの親子が逃げられるだけの時間を稼いで、自分たちも逃げるだけだ。あの巨体ならば、狭い路地を使えば簡単に逃げられるはず。
だから、ハイリは――
「うわぁあああああああ!!!」
ハイリは、目を疑った。
自分の方へと飛んでくる肉厚の塊。それは血をまき散らしながらハイリの足元へと落ちてきた。その塊を見て、ハイリは目を見開いた。
「ブディール!!」
飛んできたのはブディールだった。彼の体には無数の傷跡が付いている。それは間違いなく、あの魔獣の棘棍棒のような尾を避け切れずに受けてしまった痕だ。
「ぐっ……へ、下手を打った……」
「喋るんじゃねぇ! クソっ、この傷は……」
血に塗れたブディールの胴体は、どくどくと血を流し続けている。生きていることが幸運だと言いたくなるほどだ。
「おい、どうするんだポーノ!」
「どうするも何も……まだ、時間を稼がなければあの親子が逃げきれない!」
飛んでいったブディールを見たロッゲがポーノへと指示を仰ぐが、悪い方向へと転がった状況を好転させる案はなく、ポーノは不十分な時間稼ぎを叫ぶことしかできなかった。
さらに言えば、囮を失った今、作戦会議をしている余裕すら彼らには与えられていない。
「ぐぁ!?」
ブディールに続いてポーノがやられた。幸い、ブディールと違って魔獣の攻撃を盾で防ぐことに成功したことで、表面上の傷は浅いポーノだ。ただ、受け止めるだけで全身が悲鳴を上げるほどの一撃を、何度も何度も彼は受けている。
立ち上がる力など残っていない。
とどめとばかりに振り上げられた尾の一撃を避ける余力なんて、ポーノにはなかった。
「あああああああ!!!」
ポーノへと尾が振り下ろされる寸でのところで、ぎりぎりロッゲが間に合った。彼が両手に持ったレザーシールドを前に出すことで、なんとかとどめは防がれる。
だが、魔獣の尾は二つある。一つを止めたところで、続く二つ目が襲い掛かるだけだ。
「やられるかよ!!」
しかし、彼は一つ目の尾から片手を外し、襲い掛かるもう一本へと対応した。ポーノ同様、既に限界を迎えているロッゲであるが、それでも彼は必死に攻撃を耐える。
余力はなく体力もない。ただ、根性だけで耐え続ける。
しかし、それにだって限界はある。そもそも、尾の一撃ならばまだしも、鋏の両断ばかりは受け止めることはできない。
ガバリと、大口を開けた鋏はまるで死神の鎌。蛇のようにしなる尾はあくまでも囮であり、本命となる鋏がロッゲの体を切り裂こうと迫った。
今のロッゲに、それを躱す余力など――
「危ねぇぞ!」
「うわぁ!」
悪友の死にざまを指を加えて見殺しにするようなハイリではない。他の三人と違って、未だ怪我無く万全な彼は鋏がロッゲの命を奪おうとしたその時、横合いからロッゲを転ばして水平に構えられた鋏から逃がした。
少々頭髪を持っていかれて、彼のロン毛はさっぱり消えてしまったが……今、気にするべきことではないか。
ともかく。
「生きてるな……」
「た、助けるにしても、もう少し、慎重にやれよハイリ!」
「死んでないだけありがたく思えよ!」
助けられてなお文句を続けるロッゲに吐き捨てるハイリであるが、別段事態が好転したわけではない。
魔獣は健在。ハイリに三人を抱えて逃げる余裕などなく、親子を逃がすための時間稼ぎだって不十分。
もしもこの状況からすべてを救う術があるとすれば――
「か、かかって来いよ……」
[ギギギギギ!]
ハイリが、この魔獣を打ち倒すほかない。
打ち倒す? いや、不可能だ。
時間を稼ぐことなら、足元に転がるロッゲ達の盾を拾えばできるかもしれない。しかし、肝心の攻撃手段がない。それこそ、殴る蹴るといった攻撃が無意味なことは、先ほどブディールが証明してしまった。
だから、ハイリにできることは時間を稼ぐことだけだ。
自分が死ぬまで、親子が逃げ切ることのできる時間を稼ぐことだけが、彼に残された最後のあがきだ。
「虫如きが人間を嘗めんじゃねぇぞ!!」
拾い上げた盾を構えて、向かってくる尾の一撃をいなすハイリ。
強烈な一撃が彼を吹き飛ばすが……ハイリは立ち上がった。そして、倒れ伏す三人に矛先が向かわないように、彼は威圧して前進する。
俺を、狙えと。
「来いよ!!」
幸い、動かない獲物には興味がないのか、魔獣の狙いはハイリへと向いた。
同時に、魔獣の攻撃が一斉にハイリへと殺到する。ハイリの手にはレザーシールドが一枚だけ。たった一人で魔獣を食い止めるには頼りない武装だけれど、背水となったハイリはたった一枚のシールドで魔獣の猛攻を防いだ。
尾の一撃をいなし、迫りくる鋏を避け、破壊的な猛突を誘い、瓦礫の山で舞う――
だが、火事場の馬鹿力でも言おう力を発揮したハイリにも限界は訪れる。
死を垣間見る戦いは、想像以上疲労を齎し、じわじわと彼の体を蝕んでいたのだ。足は上がらず、盾を持つ腕が鉛のように重くなる。疲労で意識が薄弱として、視界が白みがかっている。
それでも、それでも。
「来いよ……」
もう、どれだけ時間を稼げばいいのかなんて、正常な思考はできなくなってしまったけれど。それでも、彼は命の続く限り立ち上がる。
それはなぜか?
決まっている。
彼があの二人を助けたいと思ったからだ。
心の底から、衝動的に――
「うぐっ……!!」
尾の一撃に嗚咽が漏れる。限界を迎えたハイリの体は膝から崩れ、平伏するように視界が地面に沈んだ。
(死ぬ……)
限界だ。
(嫌だ……)
死にたくない。いつだって、彼はそう思っている。
(ああくそ、なんでこんなところで……)
男として生まれたからには、巨乳の嫁をもらえなければ死んでも死にきれないと思い続けたハイリは、今際の際で何を思う?
ここで死ぬことは明白だ。
死にたくなくても、死ぬしかない。
そんな中、ハイリは――
「あいつらは、逃げられたか……ああ――」
あの親子は逃げ切れたか。そんなことを思った。それから、ただ一つの願いを呟く。
「死にたくねぇなぁ……」
魔獣が迫る。
強固な装甲に守られたその魔獣は、鞭のように二股の尾を自在に操り、近づけば死神の鎌のように鋭利な鋏で両断する怪物だ。
とてもじゃないが、ハイリ達が敵う相手ではない。
故に、死ぬのだ――
「――静かにした方がいい」
その時、閉じかけた瞳を覚ますような寒風が戦場に吹いた。
冷たい空気が頬をなぞる。冷徹な言葉が戦場を支配する。
そして、聞き覚えのある音は、冷め切った戦場にて高らかに鳴り響いた。
パチンッと。
「応援要請に従って来たがいいが……まったく。自らの実力を鑑みず、衝動的な偽善に身を任せ、役不足を知らないままに、醜くくたばる貴様らの無能具合には、理解に苦しむばかりだ」
いつの間にか戦場にいたその男は、人差し指で眼鏡の位置を正しながら言う。
「出来損ないの頭を使って自らの体たらく見直すべきだな。人助けのためにくたばるような愚図には戦う資格すらないことには気づいたか? その汚い尻を拭うのが誰の仕事なのか理解したか? 見習い如きがしゃしゃり出るべきではないのだよ」
その男は冷徹だ。
「許されるのならば私が貴様らを殺してやりたいぐらいだ。それほどの恥を晒しながらどうして貴様らは息をしている。半死人になる程度ならば潔く死ね。惨めに死ね。未熟さを抱き高潔からかけ離れたまま死ぬのがお似合いだ」
その男は残酷だ。
「……だが」
それでも、彼にだって他の兵士たちと変わらない思いがある。
「死に瀕する人を助けようとする意志。それだけは評価に値する」
彼も、警備隊に籍を置く兵士の一人なのだから。
故に、彼は立つ。民を守り、愚かな部下の尻拭いをするために。
「不本意だが、不出来な部下の代わりだ。ここは私が受け持つとしよう」
「ローディア!!」
アルダ貿易都市警備隊副隊長にして、へディア王国が誇る騎士が一人――
【冷刻】のローディア・ガンベルトは、魔獣の前に立ちはだかった。
―to be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます