第19話:皮手袋の防御力

 最近、リンネの圧が凄い。

 パンチはますます激しくなってきた。

 近所の人からもらった皮手袋は、毎回装備している。


「ウアーウゥゥゥ (早くカリカリを出せ)」

「そんな睨みながらゴハン待たなくても……」


 僕が保護部屋に入ると、ケージの奥から歩み出てくるようになったリンネ。

 空の食器の真ん前に立ち、こちらを睨んでいる。

 作業のためにケージに触れようとすると、パンチを飛ばす。


 食器の前に立つってことは、食べ物がもらえると分かってるよね?

 だったら、睨まなくてもよくない?

 攻撃する必要ないよね?

 もっと媚びてくれてもいいんだよ?


 しかし、猛猫の選択肢に「可愛く鳴いてみる」は無いようだ。


「ウアーオ! カッ! (とっとと出しやがれ!)」

「はいはい、恐喝やめてね」


 サランラップの芯をケージの格子の間から差し込むと、威嚇した後にガブリと噛む。

 噛まなくてもカリカリが出てくるのは知ってるよね?

 前は攻撃しなかった「食べ物が出てくる筒」にもパンチしたり噛みついたり。

 そんなことしなくても、毎回あげるのに。

 カツアゲするチンピラの方がまだマシかもしれない。


 リンネの御世話で一番の難関はトイレ掃除。

 ケージの扉を開けて、トイレ容器を取り出す時が一番危険だ。


「トイレ掃除するから、そこどいて」

「シャーッ! (なんだと!)」

「ちょっと失礼するよ」

「ウアーオゥッ! カッ! (入ってくんな!)」


 ケージの中に手を入れると、リンネがブチ切れる。

 トイレのプラ容器も毎回殴られている。

 取り出したトイレ容器から排泄物を取り除いて、減った猫砂を補充して、ケージに戻すのも一苦労。


「はい、掃除終わり。トイレ戻すからどいて」

「ウアーオゥゥゥ! (もう許さん!)」


 今日のリンネは特に機嫌が悪い。

 秒間3発の高速パンチを放ったぞ。

 猫ってこんなに速くパンチを出せるのか。

 技名をつけたくなるくらいに見事な高速3連撃だ。

 3発目を放った直後、低ジャンプからの噛みつき攻撃がきた!

 皮手袋をガブリと噛んだリンネは、そのまま足を踏ん張りながら後退して引っ張る。

 なんだか猫というより犬みたいな噛みつき方だな。

 手袋を脱がされないかと少し焦ったりもした。


「ウ~ウゥゥゥ~! (こんなもん引き裂いてやる!)」

「こらこら、防具破壊はやめてね」


 グイグイ引っ張られるのをどうにか振りほどいて、ケージの扉を閉めた。

 ケージの中で、リンネは唸りまくっている。


 パンチはともかく、鋭い牙による噛みつき攻撃を受けても無傷で済んだのは運がいいかも。

 噛まれたのは人差し指の辺りだけど、皮手袋が防いだので痛みも無い。

 確認してみると、皮手袋そのものも破損は無い。

 皮手袋が、百均商品とは思えないほど大活躍した日だった。



 ※3連パンチからの噛みつき攻撃を防いだ皮手袋

 https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093076802547600

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