第9話:無情の豪雨

公園に棄てられた猫が、子供を産んだ。

緑の葉を茂らせた木々に隠れるように、ひっそりと。

その公園の猫たちには、毎日食べ物をくれる人がいる。

母猫はその中に混じって食事にありついていた。


その公園には、猫たちが雨宿りできる場所は多くない。

許可を得て、ボランティアが猫ハウスを置いたりはしている。

なにしろ100匹以上の猫がいるから、ハウスの数はまだ足りていない。

来たばかりの猫が、良い雨宿り場所を確保するのは難しい。


棄てられて間もない猫が、出産した日の夜に、激しい雨が降った。

木の下にいた乳飲み子と母猫は、豪雨の中でどうしているだろうか?

母子を見守るボランティアからの報告はまだ入っていない。


棄てた飼い主は、なんのために猫を飼っていたのだろうか?

愛情が無いのなら、飼わなければいいのに。

無情の飼い主に、猫は出産間近で屋外へ放り出されて、産んだその日に豪雨に遭った。


※管理ボランティアからのお知らせ拡散中

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093076137848118



「シャーッ! ウアーウゥ~(酷い、だから人間は嫌い)」


リンネが聞いたら、間違いなくそう言うであろう案件だ。

そんなリンネは、野良猫の身でありながら屋内で出産した。

5匹の仔猫たちは、全員順調に育っている。


相変わらず毎日欠かさずパンチを飛ばすリンネ。

ケージ固定の容器に、サランラップの芯を使ってドライフードを注ぎ入れるのはかなり慣れた。

リンネもザラザラと音を立てて注がれるそれを眺める時はパンチしてこない。


「リンネ、ちゅーる持ってきたよ」


声をかけて、ちゅーるを見せると、野生のお嬢様が近付いてくる。

いつパンチがくるかとドキドキしつつも、それを悟られないように冷静さを保つ。

話しかける声が大きく甲高いと動物には警戒音と間違われ、低すぎると唸り声と間違われてしまう。

だからいつも、声の大きさや高さに気を付けて、穏やかに話しかけるようにしている。


「ここへ入れておこうか? あ、直で食べるんだね」


ドライフードの容器の隣に取り付けた器はちゅーる用。

だけど、昨日からリンネが寄ってきて小袋から直食いするので、器はほぼ使っていない。


「ウァーオ、ウゥ~アーオ(人間は敵だけど、ちゅーるを作ったことは褒めてあげる)」


最近、リンネの唸り声はレパートリーが増えた気がする。

ちゅーるを舐めている時を除けば、リンネはずーっと何か言い続けている。


「ウ~ウゥゥゥ~(ごはん置いたらすぐに去れ)」

「はいはい、手短に済ませるよ」

「ウ~アーオ(ふりかけ忘れんなよ)」

「ほら、かけとくよ」


最近はピュリナワンがごはん、三ツ星グルメはふりかけということにしている。

リンネはきっちり完食だ。



※リンネと仔猫たち 2024.4.23撮影

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093076137968822

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