第4話:パンチ防衛中

「おはようリンネ」

「シャーッ!(また来やがったな!)」

「ごはん持って来たよ」

「ウウウ~ゥ~ッ(それを置いてすぐに消えろ)」

「お~、ビブラートきかせた唸りだね」

「カッ!(黙れ!)」


 今日もやっぱりパンチが飛ぶ。

 猫トイレに使っているプラ容器で防御ガードしつつ、リンネのお世話をするのも少し慣れてきた。


 リンネの祖先は、人間に捨てられた猫。

 石垣島の緑地公園では、昔から猫の遺棄が絶えない。

 その数は、年平均100匹前後。

 2022年には176匹もの猫が棄てられた。


 捨て猫たちのその後の人間への反応は2つに分かれる。

 捨てられても人に寄り添いたいとスリゴロを続ける猫。

 捨てられて人間嫌いになるシャーパン猫。


 そんな猫たちの中で、公園に居着くことはなく、その奥の工事現場へと移り住んだのがリンネたちの祖先。

 祖先はそこで野生の獣のように暮らし、子孫を残している。

 その子孫たちは「人間は裏切るから信用するな」と教えられて育つのだろう。

 野生化した猫は、2日や3日で心を許すことはない。

 餌やりすれば食べには来るが、触られない距離を保つことが多い。

 中には人間の姿が見えているうちは食べようとしない猫もいる。


 そんな群れの中に生まれ育ったリンネ。

 餌やりボラさんは2週間くらいで「食べてる時は触れるようになった」と言っていた。

 野生の獣でも毎日餌やりすれば多少は懐く。

 リンネは、2週間毎日餌やりに来ていたボラさんには、心を許し始めていたらしい。

 けれど、そのボラさんにケージに誘導されて捕獲されたので、人間不信が倍増したようだ。

 今のリンネにとって人類全て敵なんだと思う。

 屋外生活に戻ったら、二度と捕まらない気がする。


 そんなリンネのお世話は、なるべく短時間で手際よく済ませる。

 人間の姿なんか見たくもないリンネに、あまりストレスを与えてはいけない。

 ストレスが溜まり過ぎると育児放棄したり仔猫を食い殺したりする危険があるので要注意だ。

 幸いリンネはケージをほとんど散らかさないので、掃除はかなり楽だった。


 猫トイレの砂は、自宅にあった紙砂。

 前にTNRの一時保護をした猫は、紙砂は使ってくれなくて自然の砂に近い猫砂を買いに行ったけど。

 リンネは紙砂できっちり排泄してくれる。

 多くの猫は排泄時に砂をまき散らかすんだけど、リンネは散らかさない。

 シャーパン猛獣は、意外とおしとやか(?)かもしれない。

 おかげで、トイレ掃除は排泄物を取り除いて捨てるだけの簡単完了。


「シャアアアッ!(あんたがすぐ去るようにしてんのよ!)」


 と言っているとか、いないとか。


 そのパンチ飛ばすのをやめてくれれば、トイレ容器を出し入れする時間短縮できるんだけどな。

 野生のお嬢様は、そこまで気が回らないようだ。



 ※画像:リンネと子供たち 2024.4.18撮影

 https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075798862205

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