第3話:今日もパンチのキレがいい

「おはよう、リンネ」

「シャーッ!(またお前か!)」

「ゴハン持って来たよ」

「シャーッ(置いたらサッサと出てけ!)」

「先にトイレを掃除しようね」

「カッ!(なんでだよ!)」


 そんな会話があったり、なかったり。

 保護部屋には、今日もキレのいいパンチを放つリンネがいる。


「あれ? シーツいらない?」


 出産3日目、昨日までは身体の下に敷いていた厚手のペットシーツを、リンネは脇に押しやっていた。

 まだ冷房も暖房もいらない、石垣島の昼間の気温は生後間もない仔猫たちに快適な27℃。

 成猫のリンネには少し暑かったんだろうか?

 とりあえず、本猫リンネの好きにさせとこう。

 シャーパン猫の身体の下に新しいペットシーツを敷く技術は持ち合わせていない。

 新しいペットシーツは半分くらいケージ手前に敷いてみた。

 使いたかったらリンネが自分で引き寄せると思う。



「相変わらずシャーパンしてますよ」

「なかなか慣れませんね~。こちらは保健所のミルクボランティアが始まりましたよ」


 リンネの様子をLINEで伝えたら、依頼人が新入り仔猫の画像を送ってきてくれた。

 依頼人は、仔猫の預かりボランティアで、保健所のミルクボランティアもしている。

 八重山保健所も、そろそろベビーラッシュが始まる頃。

 別のボランティアメンバーから、3月に収容された仔猫の離乳完了報告もきた。

 体重300gで保健所に収容された仔猫は、1ヶ月が過ぎた現在は850gになっているらしい。


『保健所の仔猫、ノミダニ駆除・ウイルス検査・ワクチン接種・ジアルジア含む検便まで完了、体重850gになりました。そろそろ送ってもいいですか?』


 東京のボランティアYKさんにLINEしてみた。

 石垣島では猫の譲渡は月に1匹あるかないか。

 仔猫は貰われないまま大きくなってしまう。

 島外からお声がかかれば、積極的に送り出している。


 リンネの姉妹猫(4月11日避妊手術済)の子供たちは、現在体重1kgを過ぎたところ。

 4月22日の午後に、東京への空輸が決まった。

 小さな猛獣だった姉妹猫は、術後の抗生剤投与期間を経て、元の場所へ帰した。

 スリゴロだったら、里親探しをするのだけど、猛獣は人間が大嫌いのようだ。


 リンネの子供たちも、無事に育ったら東京にお願いしますと伝えた。

 猛獣リンネは、子育てが終わったら姉妹猫のいる場所へ帰そう。


 でも。


 もしも。


 奇跡が起きてスリゴロになってくれたら、里親探しをしたい。

 そんな願いなんか知ったこっちゃない感じで、リンネは今日もシャーパンだった。



 ※リンネと仔猫たち 2024.4.17

 https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075774239417

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