第2話:挨拶は「シャー」

 保護部屋の扉を開けると……


「シャーッ!(来るな)」


 ……リンネの御挨拶。


 ゴハンと水の補充や、猫トイレの掃除をしている間、リンネは何度もシャーと言う。


「そんなに怒るなよ~」

「シャァァァ!(うるさい)」


 話しかけても、これ。

 塩対応? いいえ胡椒対応。

 むしろ島唐辛子対応。


「はい、ちょっと失礼するよ」

「ガッ!(殴るぞ)」

「って、もう殴ってるし」


 掃除のため、猫トイレをケージから出し入れすると、パンチが飛んでくる。

 キレのいいパンチ、具志堅用高もビックリだ。

 幸い、鋭い爪は猫トイレの容器でガードできていて、怪我はしていない。

 リンネの世話を手短に済ませたら、次は飼い猫たちのお世話に向かう。



「ニャア! ニャア! ギャーオ!(ごはん! ごはん! お腹空いた)」

「君はなんでそんな何日もメシ食ってないみたいな声出すかな?」


 去年の保護猫レミ。

 生後4ヶ月頃に妊娠していて、仔猫の身で出産してボランティアたちを驚かせた張本人。

 最近は家の外まで聞こえる大声でゴハンを要求し、他の飼い猫たちにドン引きされている。

 妊娠中から子育て卒業後の現在まで、旺盛な食欲は変わらない。

 大きくなった腹は妊娠ではなく、贅肉とか脂肪とかでできている。

 彼女にとって、人間はゴハンを運ぶ下僕なんだろう。

 それでもスリゴロしてくれる(ごはんのために)から、いいと思う。


 レミの子育て期は、仔猫の体重を計れるくらいにスキンシップがとれた。

 リンネは仔猫を触らせない。勿論自分の身体も触らせない。

 射程内に入れば鞭のようにしなるパンチが飛んでくる。

 人間の匂いがついたら、仔猫を食い殺してしまうかもしれない。

 だからなるべく近付かないように、静かな個室にケージを置いて見守ろう。


 母猫つき乳飲み子のお世話は、猫任せ。

 人間は母猫の世話だけすればいい。



 リンネ、産後2日目。

 茶トラ仔猫マイクル以外の仔猫たちの名前は、健康や幸せを表すものにしよう。

 いそいそとネーミング辞典を本棚から引っ張り出して、付けた名前はこんな感じ。


 茶トラ系は多分オスかな。

 男の子っぽい名前でジョイ(英語で「喜び」)とルスト(ドイツ語で「楽しさ」)にしよう。


 黒っぽい子たちはよく見るとサビ猫っぽいので多分メスかな。

 女の子っぽい名前でジョワ(フランス語で「喜び」)とサンテ(フランス語で「健康」)で。



「5匹もいたら、1匹は生存競争に脱落するかもしれないよ」


 自然や動物に詳しい知人が、そんなことを言っていた。

 それは自然の摂理で、猫のように多産の生物にはよくあること。

 猫の子の死亡率は高い。

 でも5匹は今のところ存命、このまま無事に育ちますように。



 2024.4.16 リンネと仔猫たちの画像

 https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093075715860990

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