第30話 アレク様と呼ばせていただきます?

目を覚ますと、私は城の一室のベッドにいた。

あれ?私……。


確か、アンジェリカ王女を部屋に運んで、アレクシス様の具合を聞いたとこまで思い出せるけれど、そのさきどうしたんだっけ?


「ミツキ、気がついたか?」

「……レイ?」


枕元のほうからレイの声がして、そちらを見ると、椅子に腰掛けたレイがこちらを見ていた。

「大丈夫か?」

レイのほうが、疲れた顔をしてるよ?そう思ったけど、うまく声が出せなかった。

「馴れない力を使い過ぎて、アレクの部屋で倒れたんだ」

「そう、なんだ」

「ミツキ!目が覚めたのかい?」

「……ルーセル?」


レイの後ろから、ルーセルが顔を覗かせる。

「キミは無茶しすぎだよ。部屋にいるようにって言ったのに」

「ごめん、なさい」

「でも、アンジェリカ王女を助けてくれて、キミに感謝するよ。本当にありがとう」

「いえ」

彼は、いつものチャラけた様子ではなく、本当に私のこと心配してくれてる表情かお


私が気を失ってから丸1日眠っていたらしい。

アレクシス様の怪我も出血が多かったものの、思うほどひどくはないこと、アンジェリカ王女は覚えていないことなど聞いた。


「そっか。王女様はやっぱり操られていて、記憶が無いんだね。良かった」

「良かった?」

レイが不思議そうに聞く。

「ミレイユのこと信頼してそうだったから。裏切られて、あんな酷いこと言われて、そんなのかわいそうだし、知らないほうがいいから」


「ミツキが助けてくれたことも覚えてないの、残念じゃない?王女に恩を売るチャンスなのに」

ルーセルがそんなことを言った。彼らしいなぁ~

「そんなの別にいいよ。ドラゴンとか、あんな恐いこと覚えてない方がいいよ。それに、アレクシス様に怪我させちゃったことも、王女様が辛いだろうから」

操られてたとは言え、自分を助けに来てくれた兄に、次期王様になる人に刃を向けて怪我をさせただなんて、引け目を感じてしまうだろう。


「あんたって、さ」

「ん?」

「ほんと他人ひとのことばっか心配して、自分のことは全然なのな」

「え?」

「あんたは優しすぎるんだよ。もう少し自分のことも大切にしろよ」

「レイ……」


そんなこと言われたの、初めてだ……。


「レイも人のこと言えないだろ。お前もなっ」

いてっ」

バシッとルーセルに背中を叩かれて、レイが顔をしかめた。

「ミツキよりマシだ」

「いいや、だな」

「最近はそんなことない」

「まだまだ子供だよ」

そんなことない、いいやそんなことある、などと言い合ってじゃれてる二人が面白くて、私もつられて笑ってしまった。


そのあと私はレイに付き添われて執務室へ行き、もう仕事をしているアレクシス様に会った。


「失礼します」

私が部屋の中へ入ると、正面の執務机でアレクシス様は書類の山にもれていた。

「具合はどうだ」

「大丈夫です。たくさん寝たのでスッキリです」

私がニッコリ笑って答えると、嫌味でも言われるかと思ったけど、意外にも違った。

「そうか」


アレクシス様は静かにペンを置くと、椅子から立ち上がり、私の方へと歩いてきた。

たっぷりとした白いシャツの下の、左腕に分厚く巻かれた包帯が分かる。


「ミツキ。俺が駆けつけるのが遅くなり、すまなかった。お前を危険な目に合わせて申し訳ない」

そう言って、アレクシス様が頭を下げた。

「そんな、顔をあげてください!アレクシス様は私を助けてくださいました」

私はあわてて言った。


「俺はお前のこと、少々誤解していたようだ。かと思っていた」

うっ……

「生まれてきた意味がないなんて、そんなことはない。アンジェリカにも幸せになる権利はある」


あ、それ……私がミレイユに言ったこと?


「お前には信念があって、ちゃんと内に芯が通ってたんだな。きっとお前を育てた者は、良い両親だったのだろう」


え……いきなり、そんなこと言われたら……


「アンジェリカを助けてくれて本当に感謝する。ありがとう」

「アレクシス様……」


透き通るような空色の瞳が綺麗で。

泣いてしまいそうになる……


「それから、と呼べ」

「は?」

「お前にはそう呼ぶことを特別に許可してやろう。に思え」

「…………」

「ほら、呼んでみろ」

「あ……」

だ」

「ア、レク、様?」

「ハハハ、嬉しいだろう!だからな!」


あなたの方が嬉しそうですが……

泣きそうになった涙は、一気にどこかへ消えていった。

後ろでレイが舌打ちしたように聞こえたのだけど、気のせいかな?


「明日はレイが“ヒスイの森”へ調査へ行く。ミツキも同行しろ」

「ヒスイの森?」

「レイが一緒だから、大丈夫だろう?」

「ああ」


そして、私たちは明日、“ヒスイの森”へ行くことになった。

帰りの馬車の中でレイが教えてくれた。

近頃、この国に存在する森や山、湖など自然界がざわついているらしい。

その原因を探ったり、また大きく異変がないか、レイ達は自然界の調査を行っているらしい。


「明日俺たちが行く、“ヒスイの森”はランドルフ家の管轄かんかつでもある。古い森だから精霊も多く、いやしの力を持つ森だ。とくに緑の精霊はランドルフ家を加護するものでもあるし、守護する関係でもある。俺といれば、妖精が見えるあんたでも危険なことはない」

「へえ、そうなんですね」


少しレイは言葉をきって、言う。

「アレクなりの気遣いだろ…あんたに早く元気になれって」

「え?」


レイは頬杖をついて、馬車の窓の向こうを向いてしまった。

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