第28話 白馬の王子様、登場!?
右手首に熱が集中していくのを感じる。
「お願い助けて!!白銀の姫っ!!!」
金の鎖が白くまばゆい光を放ち、何かを伝えてくるかのように輝く。
「あのドラゴンから姫を守るには、どうすればいいっ!?」
思わず右手に現れたブレスレットに向かって叫ぶ。
カタン……
すぐ目の前に白銀に輝く弓が現れたかと思うと、足元に音を立てて落ちた。
「えっと?……弓?」
一瞬、呆然とする。
弓なんて、引いたことも触ったこともないんだけど!?
いや、あった!幼稚園のときお祭りでね。竹の小さな手作りだったけども。
そんなどうでもいいこと思い出したけど、こんな本物の弓なんて使いこなせない。
それに弓があっても、矢は?どうしたらいいの?
ドラゴンがグルルル……と喉を鳴らすのが聞こえてくる。
無いよりはマシってやつ!?
私はアンジェリカ姫を自分の背中に隠し、足元に転がってる白い弓を急いで拾った。
すると、空いた左手に、いつの間にか純白の矢が握られていた。
「……わかった」
私は誰に言うわけでもなく、強いて言うならば、私を助けてくれようとしている白銀の弓にそう答えて、映画やアニメの見よう見まねで、弓に矢をつがえる。
「あんた、ただの使用人じゃないの!?」
ミレイユが何やら言ってるけど、そんなこと構う余裕はない。
ギリギリギリ……と音をたてて、弓を引いていく。
ドラゴンの目と目の間に焦点を合わせる。
「お願いっ!助けて!!」
ギリリィ……と思いっきりひく。私の力不足で矢先が揺れる。
「行けーーーーー!!!」
私は、矢を引く手を離した。
けれど、手を離す瞬間、衝撃で手がぶれた。
弓は不思議な力を受けてるのか、光を帯ながら、まっすぐにドラゴンを目掛けて飛んだ。
矢は横にずれて、ドラゴンの
最悪……
やっぱり無理。どうしたらいいの!?
ドラゴンが怒りでギロリと睨みつけてくる。きっと2度目はない。
そうだ!「力は弓に、守りは盾に」とも、白銀の姫は言っていた!
よし。攻めがダメなら、守りは盾に……
「お願い!守って!」
そう叫ぶと、私は弓をドラゴンに向けて突き出した。
弓から光が溢れ出し、思ったとおり光の壁が私たちをシールドのように丸く包む。
同時に、ドラゴンが口から炎を吐き出した。咄嗟に私は目を
ズシン……地面を鳴らし、ドラゴンがこちらへ踏み出す。どうしよう、こんなの真正面から来たら簡単に踏み潰されてしまう。
ドラゴンがさらに2歩3歩とゆっくり近づいて、私は怖くて弱気になる。
え?シールドの光が弱まった!?
瞬間、後ろへ足が出てしまう。
「後ろに下がるな!お前ならできる!!」
ふいに、後ろのほうからアレクシス様の凛とした鋭い声が聞こえた。
咄嗟に、後ろに下がった私の足も、再び地面に力強く一歩前に踏み出し、腕に力がこもる。すると、再び消えかけていたシールドが厚く眩しい光を放ち始めた。
「そうだ!いい子だ」
私のすぐ傍に並び立ったアレクシス様が耳元で言った。
いい子!?あなた、そんなキャラだった!?
隣に立つアレクシス様の顔を見たいけれど、ドラゴンから目を離すことが出来ない。
「このあと、ど、どうしたらいいですか?」
私は前に手を突き出したまま、動くことが出来ない。
「大丈夫だ。俺があいつを何とかする」
そう言ってシュンっと剣を抜く音がして、私の視界の端に、剣が光を反射し煌めく。
僅かに横に向けた視界の中に、さらりと金の髪が見えた。
「お前にはアンジェリカを頼みたい」
そして、いったん言葉を切った彼は私の肩に手を置いた。あたたかい手。
「いいか?」
「もちろんです」
「よし」
アレクシス様が、片手に持つ剣をゆっくりと、ドラゴンに向かって構える。
「おい、お前の相手は俺だ」
グワァァゥ
ドラゴンが咆哮する。
腕を組み、ミレイユがフンと鼻を鳴らし嗤った。
「あら、王子様は余裕ね。後ろがガラあきよ」
「なに!?」
ミレイユの言う意味が解らず、え?と私も思わず油断した。そのときだった。
いつの間に手にしていたのだろう。
私の横を突き飛ばすようにして、アンジェリカ姫がすり抜けたと思うと、短剣をアレクシス様に振り上げていた。
「アレクシス様!」
私が叫ぶのと、アレクシス様が身体ごと振り向くのと同時だった。
アレクシス様は目を見開き、アンジェリカ姫の剣先をかわす。けれど、避けきれなかった。
ザシュッと音がして、アレクシス様の白いシャツの袖を切っ先が裂いた。
赤い筋が真っ白に滲む。
「アレクシス様っ!」
私は悲鳴に近く、彼の名前を叫んでいた。
アレクシス様は表情を歪めたけれど、すぐにアンジェリカ姫の細い手首を掴み、まだ短剣を振るおうとする動きを塞ぐと、そのまま引き寄せ後ろに回り、首に手刀を落とした。
「悪い」
その場に崩れ落ちようとするアンジェリカ姫の身体をアレクシス様が抱き止め、地面にその小さな体をそっと寝かせた。
アレクシス様の兄らしい一面を感じる。
彼は本当は優しい王子様なのかも知れない。
「おい、お前」
「は?私でしょうか?」
「お前以外に誰がいるんだ?」
ジロリと、私の隣でアレクシス様が上から見下ろしてくる。
ちょっと鼻を鳴らされたでしょうか。
優しい王子様というのは却下しよう……
「俺が
「ど、どうやって!?」
「その弓と矢は飾りか?」
「ほぼ飾りです」
「はあ?」
「だって、幼稚園の手作り弓くらいしか触ったこともないし、こんなちゃんとしたモノ、今、生まれて初めて持ちました」
「言ってる意味が解らないな」
「知識はアニメ程度しかありませんっ」
信じられないと言うように、アレクシス様がドン引きの顔をしている。 綺麗な顔が勿体ないっ。
そう思ったとき、ふと、アレクシス様の白い袖が、たっぷりと赤く染まっているのが視界に入った。
「アレクシス様!出血がひどいじゃないですか、大丈夫ですか!?」
アレクシス様はスッと視線を落とし、赤く染まった袖を見たが、顔色も変えず、かすり傷だと言った。
絶対嘘ですよね!?
「ねえ、お二人さん、ゆっくりしているようだけど、いいのかしら?」
ミレイユが笑いを含んで、声を張り上げて言ってきた。
「もうすぐ夜が明けそうだけど」
ハッとして東の空を見上げる。さっきまで暗い夜だった空が、薄く色を変え始めていた。
隣でアレクシス様がチッと舌打ちをする。
アレクシス様は陽の光を浴びることができない。
どうしたらいいの!?
「ミツキ、アンジェを頼む」
口早にそういうと、彼は剣を手にミレイユ向かって駆け出したが、ドラゴンが行く手を阻み、彼とドラゴンの闘いとなった。
私はそちらに気を取られている間に、すぐそばにミレイユが来ていたことに気づくのが遅れた。
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