第15話 白銀の姫

屋敷に戻った私は、初めてのメイド仕事と久しぶりに子どものように大泣きしたことで、すっかり疲れ切って、布団に入るとすぐに、ぐっすり眠りに落ちた。


その晩、なんだかとても不思議な夢を見た。


夢の中で、私はランドルフ家の屋敷の庭に立っていた。

いつの間にか、目の前にまっ白な綺麗な女の人がいる。


まっ白な人……

正確には、長い髪の毛は銀の絹糸のように細く綺麗で、白銀に輝いていて、肌は透き通るように色白だけど、は薄いグレー色で、小さな唇は薄いさくら色。

そして、白いシンプルな丈の長い服を着て、おでこには、小さなダイヤモンドの額飾りをしている。


はっきり言って、めちゃくちゃ綺麗で可愛い!!

子どもの頃に読んだ絵本に出てくる雪の女王や天使さまみたい。

昔、パパと見た古いファンタジー映画に出てきたお姫様に似ている、と思った。

オタク女子として、こんなに綺麗で可愛い女の子を見ると、テンション上がらないではいられない!!


「ようやく貴方に会えました」

あれ?なんだか私のこと知ってる口ぶり?


「あなたは誰?」

夢だと思うと、いつもの私より大胆に質問もできる。

いつもなら、こんな美少女を前にしたら、口をきくなんて無理。

物陰の隠れて、もしくは遠く離れて、自分が景色と同化してから、ひっそり拝みたい。


「白銀の姫と、かつて呼ばれていました」

「白銀の、姫……」

ぴったりの呼び名だ。


「このような形でしか、まだ会えなくてごめんなさい。いつもはこの屋敷の主がいるから私は入れないけれど、今夜はいないから、こうして思念を送らせてもらいました。でも、屋敷の中では誰かに感づかれてしまうので、貴方にここまで来てもらいました」

白銀の姫は声も綺麗で、威厳があるふうにも聞こえる。


思念、ということは、今、目の前にいるのは、実体のないってこと?

全体的に薄く儚く見えるのは、そういうこともあるのかな。


「じゃあ、いま白銀の姫様は、遠くにいるの?」

「ええ。ここより遠い北の地に」

「北の地?」


「貴方とは、ゆっくりと話したいことが山のようにあるのだけれど、あまり長くこうしているわけにもいきません。あやつらに見つかっては、大変です」

「あやつらって?」

「今はまだ……」


初めて聞くことばかりだ。白銀の姫は話を続ける。

「私は、貴方を守るもの。力を貸すもの……とでも言っておきましょう」

「守る?力を、貸す?」


なんか中二病のような夢になってきた?

夢だとわかっているから、他人事のように自分を見る。


「右手をだして」

そう言われて、私はなんの疑いもなく、右手を差し出した。

「こう、ですか?」

なんとなく右手の甲を上にして出す。


白銀の姫は彼女の顔の高さに左手を掲げる。

すると、握りしめた掌が白く輝き、そこから握った砂を落とすように、金の粉がさらさらと一筋の砂のようにこぼれ落ちた。

こぼれた一筋の金の砂は、積もるようにして、何かの小動物の足元から形作っていく。

みるみると、魔法のように姿を現したのは、真っ白なリスだった。


え!?白いリス!?


写真では見たことあったけれど、実際に見るのは初めて。

目が赤くて、うさぎみたい。

可愛い!


手と口に木の実ではなく、金の細いブレスレットみたいなのを持っている。


白いリスは、差し出した右手にぴょんと飛び乗り、手首を2,3回くるくると回った。

回ったあと、リスは白銀の姫の足元に戻ると、姿を消した。

すばしっこいリスが姿を現して消えるまで、あっという間だった。

まるで手品を見てるみたい。


けれど、私の右手には、リスが持っていた金の細い鎖のブレスレットが巻かれている。

きらきらと金色に輝いているブレスレットには、小さなダイヤモンドが一つ付いていた。あ、白銀の姫の額飾りに似ている?


「その鎖は、あなたを守るとなりとなるでしょう。あなたが真に必要とするならば、あなたを支え助けになることでしょう」


私がブレスレットに触れようとしたとき、それはスーッと右手首の中に染み込むように消えていった。


ええっ!?身体の中に入っていった!?


驚いたけれど、別に痛くも違和感に感じることもなかった。

「え?でも、消えちゃったけど、使いたいときは、どうやって使えば?」


「困ったときは、私の名を呼んで。呼べないときは、念じて。そうすれば、あなたの宝石いしが力を貸すでしょう。力は弓に、守りは盾に。あなたならきっと使えるはずです」


「え?そんな……」

ちょっと、ざっくりすぎませんか?

そう思ったけど、何からどう聞けばよいのか分からない。

そうしているうちに、白銀の姫が言った。

「そろそろ限界です。遠いため、私の力も使いすぎてしまいました。それに、これ以上はあなたにも危険が及びます」


ふと、白銀の姫は、心配そうな顔をした。

「どうか、われらの若き王をともに守り、この世界を助けてもらえないだろうか」


そういう彼女の顔は不安げで、その姿はだんだんと薄れていく。

「待って、どうして私なの!?」


「ミツキ、あなただから……」

そう言って、白銀の姫の姿は消えた。


え……ええ!?

そこを聞きたいのだけど……


疑問だけが残って、なんだかモヤモヤした状態で、目が覚めた。


そこは、最近毎朝目を覚ます、天蓋付きベッドのふわふわ布団の中だった。

カーテンの隙間から、明るい朝日が差し込んでいる。

もう朝になっていた。


右手首をおそるおそる触ってみる。全然何もなっていなかった。

我ながら、すごい夢だったなあ~

20歳すぎて見る夢じゃないよね。

ほんと中二病。


女神様の代わりになれないとか、昨夜、あんなこと言って、泣いちゃったせいかな。

どこかで自分もここにきた意味があって、それを求めるがゆえに、こんな夢を見ちゃったのかも。


はあ……とため息をつきそうになって、ちがうちがう!と言い聞かせる。

もう、せっかくこの世界へ来たのだから、この世界のこと、大好きになって帰る。みんなとも仲良くなるって決めたのだから!

朝からネガティブにならない、ならないっと。


私はぶんぶんと頭を振って、うーんっと声を出して伸びをすると、ベッドを降りた。


カーテンを開けると、気持ちの良い朝日を全身いっぱいに浴びる。

気持ちいいーっ!心機一転。

今日も異世界ライフ楽しもうっと!


何気なく視線を庭に落とすと、宿直から馬車で帰ってきたばかりで、玄関へと歩いていたレイと目が合った。

「あ」「あ」


お互い、あ、と口にして動きを止める。

一拍して、自分がネグリジェのままだったことを思い出し、慌ててピシャッとカーテンを閉めたのだった。










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