第24話 するつもりのなかった抵抗6

 流石に違法建築という言葉は堪えたのか、それとも全く想定外かつ流石にヤバイと思ったのか、岩谷さんの言った通りに大家は引き上げていった。その後夜になっても物音1つしなかったし、効き目がすごいな。

 大変すっきりした気分で節約飯を食べて、風呂に入る。……本当はドローンの壊れたパーツを、素材別で仕分けたりしなきゃいけないんだけどな。ちょっとまだ、木っ端みじんになった相棒を見るとダメージがデカくて。

 いくらブラックボックスというか、急所になってる部分はちゃんと守っているとはいえ、金属ゴーレムの推定体当たり、いや、上から降って来たか両手を組んで振り下ろした感じか。文字通り重量級の一撃が直撃していたら、無理は無理だ。


「……へこんできたな。一応仕分けするか……」


 悲しいなぁ……。形あるものはいつか壊れるとはいえ、まさかメンテナンスの次の日で、慣らし運転が終わった直後にここまで壊れるとは思ってないんだよなぁ……。壊れると言うか壊されるというか……。

 ドローンのパーツは、大体プラスチックか、セラミックか、金属で出来ている。基盤は別だが、それは精密機械系の残骸として分ければいい。壊れたカメラとか寸断された配線とかもこっちだ。

 風呂に入る前にやるべきだったんだが、まぁ入ってしまったものはしょうがない。という事で、涙も出ないが胸に穴が開いたような気分で、ちまちまと残骸の仕分けを開始した。


「……、ん?」


 考えれば考える程悲しくなってくるから、無心でひたすら手を動かしていると、インターホンが鳴った。時計を見ると、もう夜の11時だ。こんな時間に来るような知り合いはいない。

 というか、知り合いであっても普通に非常識だ。そもそも、普段なら部屋の中にある「トイ・ダンジョン」を攻略して居留守を使っている時間だ。こんな時間に呼んでない奴の相手をする必要はないからな。

 だから無視して手を動かすのに戻ったんだが、続いて、ガチャン、と鍵の開く音が聞こえて、流石に顔を上げた。は?


「結界札、レベル2」


 そしてそこから、一気に階段を上がってくるドカドカという足音が聞こえた……つまり来訪者は客でも何でもなく、ただの犯罪者である事が確定した瞬間、俺ははっきりと声に出した。

 俺は部屋に結界札を設置している。これはかなりのレア物で、壁に貼る形で設置した部屋の中に対するあらゆる干渉を無効化するというものだ。そしてその範囲はある程度動かす事が出来るが、広げれば広げる程結界札の消耗は進む。効果時間が短くなるって事だな。

 逆に範囲を小さくすると長持ちする。だから普段は「トイ・ダンジョン」の湧きスポットになってる折り畳みプランターがある部屋だけを対象にしているんだが、最大、このマンション全体を守る事も出来る訳だ。


「……とりあえず、警察、じゃないな。川勢さんに電話するか」


 それを、一部屋だけじゃなくて、俺が借りてる部屋全体に広げた。それがレベル2だ。音声だけで認識してくれて即座に発動するんだから、「トイ・ダンジョン」から出てくるものは不思議だな。

 ちなみに川勢さんは、我の強い人間の屈辱を感じている顔や絶望した顔を見るのが何よりも楽しみと俺にカミングアウトした、警察だ。確か階級は警部補だったか。叩き上げ組の割に上司の覚えも良く、現場に居たいからここに留まっているとか、部下の人が言っていた気がする。

 何でそんな人と知り合いになったかっていうのは今の状況には関係ないのでさておき。体が資本と言っている人でもあるから、もう寝てるかなと思って、ダメ元でかけてみたんだが。


「あ、どうも川勢さん。こんばんは。いやその、さっき何か鍵が勝手に開いて、複数人の足音が聞こえて……や、いえ、結界札のレベル2にしたら転がり落ちたみたいなんで、大丈夫っす。ただ、単に警察に連絡するより、川勢さんの方が色々確実かなと……っす、家です。はい。あのマンションの」


 思ったより早く応答があってびっくりした。まぁびっくりしつつも状況は説明するんだが。何しろこのマンション、インターホンないからな。扉の覗き穴しかない。

 一通り川勢さんに状況を説明すると、あ、これ、絶対わっるい顔してる……って分かるぐらいウッキウキの声で「すぐに向かう」と言って電話が切られた。あの調子なら、本当にすぐに来るだろう。

 ……。ってかもしかして、何かあるかも知れないっていうのが分かってて、準備万端にして、それこそ罠に獲物がかかるのを待ち構えてた、ってぐらいはありそうだな? 今の感じだと。

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