第23話 するつもりのなかった抵抗5
普段どれほど運動していないのか、3分ほど全力で(?)怒鳴り続けた大家は、それだけで息を切らしていた。マジか。いやまぁ怒鳴り続けるのって体力使うし喉もやられるけど、正面に居てもつばも飛んでこない程度の勢いだぞ?
ちなみに玄関を入ってすぐの所には監視カメラがあるし、部屋の目隠しをするついでに手動でずっと撮影するモードに切り替えておいた。センサーで起動するモードのままだと、最大5分録画したらそこで一旦途切れるからな。
俺は黙って聞いていたが、その怒鳴り声の内容はほとんど頭に残っていない。どのタイミングで岩谷さん曰くの「絶対に勝てる」言葉を口に出そうか考えてるだけだ。後は、確かいくつか引き出しておいた方が後が楽になる言葉があったな、とか。
「……。別に、家賃10倍でもいいすよ」
その、いくつかの言葉を引き出す方向でもうちょっと頑張るか。と、決めて、まずそういう。ぜーはーしていた大家さんは、はぁ? みたいな顔で俺を睨んでくるが、確かに、そう怖くはないな。
「今の家賃、4万8千円ですよね? いいですよ、10倍でも。それで水道と電気止められなくなるんなら」
「あ゛ぁ!?」
「だってポーション1つの売値が50万ですもん。ポーション納品無しで家賃10倍なら、釣りが出ます」
売値で50万という事は、買値だとどうなる事かというと、まぁ、札束の世界だな。大体は企業が買って、化粧品やサプリの類に「原料」として混ぜて販売されるらしい。
ま、元のポーション1つで半年は効果があるんだ。薄めたところで、毎日飲むものに加工すれば近い効果は出るだろう。それに加工の途中で、こっちの薬草とか栄養剤とかと混ぜて、相乗効果を出しているらしいし。
ぶっちゃけこの規模のマンションで、エアコンはついてても旧式、ガス無し、オール電化対応キッチンではない、となると、正直4万8千円の家賃でもまだ高い。たぶん入試の時の俺は、学校と「トイ・ダンジョン公園」との距離しか見てなかった。それも自転車に乗る前提の。
「……は、はは、はははっ! そんな訳がないじゃあないのさ! この程度の効果しかない苦くてまずい水が、そんな値段で売れる訳がない! 馬鹿にするんじゃないよ!」
「本当ですよ。探索庁の公式価格設定がそうなってますし」
ちなみにこの反応を予想していた岩谷さんの推測により、俺は探索庁の公式ホームページから、買取価格のガイドラインページを表示させた状態で、スマホの画面を大家に向けた。
そこにはしっかり「美容ポーション(効果半年):50万円」と書かれている。写真がついているから、いつも俺から巻き上げているものと同じというのは分かる筈だ。どんなにバカであっても。
「はん! 偽のページで騙そうったってそうはいかないよ!」
……それを越えるバカだったようだ。ただし一応理解はしたようで、俺のスマホを叩き落して壊した。お、罪状追加だな。もちろん監視カメラでばっちり撮影されているので、言い逃れは不可能だ。
「いいかい! あんたはただはいはいと頭を下げて、薬を持ってくればいいんだよ!」
「無理です。ドローンが壊れたんで、探索できません」
「そんなつまらない言い訳をして怠けている暇があるなら買ってでも持ってきな! そんな事も思いつかないのかい!?」
「ポーションを買おうと思ったら、このマンションぐらいは買えますけど」
「馬鹿を言うんじゃないよ! このマンションはねぇ、貯金はたいて建てたんだ! そんなに価値が低い訳がないだろう!?」
ちなみにこれらの言葉も全て脅迫と暴言に当たる。監視カメラにしっかり録画されてるんだよな。気付いてないけど。
うーん、引き出した方が良いって言われた言葉も、ちょっとつついたら案外あっさり出てきたし、もういいかな。イライラ足踏みしてるのは大家自身が立ちっぱなしで疲れてきたんだろうし。
お互いの為にも、一旦ここは仕切り直しにしておこうか。俺って優しいなぁ。
「そういえば、このマンションって違法建築らしいですよ」
「……、は?」
「キッチン周りにガスの線も電源も無いし、給湯器はガス式なのにガスが来てない。強制オール電化しないといけないのに部屋ごとのブレーカーの上限が低い。ぶっちゃけいつ訴えられてもおかしくないし、こんなマンションオーナーの弁護をするのは絶対ご免だって、知り合いの弁護士が言ってました」
まぁ違法建築というのは言い過ぎかもしれないが、滅茶苦茶住みにくいのは確かだな。何しろ俺は風呂が沸かない事に気付いて、慌てて投げ込みヒーター買ってきたから。
ドローンを売ってるところには何故かキャンプ用品も売ってる。そのついでにIHコンロと延長コードも買ってきたが、ドローンのバッテリーを充電しながら風呂を沸かしつつIHコンロを使うとブレーカーが落ちるから、流石に「は???」ってなったよ。
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