第21話 するつもりのなかった抵抗3
井内が逃げ去った事で俺は帰れるようになった訳だが、もちろん俺の今日はまだ終わっていない。流石に平日にドローンのパーツを買いに行くのは無理だが、それ以外にも色々いるからな。
一応ストーカーの追加が出ないように警戒した時、岩谷さんにはどう対応したらいいか相談している。バカや狂人を法律で縛り上げたいと親しい相手には口癖のように言っている弁護士は、少なくとも法律を守って生活している俺の身柄への危害を防ぐ、という一点を重視してアドバイスをくれた。
「津和克英」
まず、帰り道で待ち伏せるストーカーこと藻久への対応について。
「なんでしょう、藻久さん」
「貴様、この週末はどこにいた」
「土曜日は1日部屋の掃除で終わりました。日曜日はバスに乗って、6つ先の停留所近くの「トイ・ダンジョン公園」に行ってました」
「トイプチの卵が手に入ったのなら速やかに提出しろ」
「卵は1つも出ませんでした」
これはいつも通りに対応しろ、ドローンが壊れた事は隠せ、だった。
藻久の目的は俺を春園清香から遠ざける事。もしドローンが壊れた事を知ったら、「トイ・ダンジョン」攻略資格証にターゲットが移る可能性が高い。と言われたからな。何故? と思ったんだが、こういう狂人の思考をトレースするのは岩谷さんの方が上手だ。
ちなみに俺は嘘は言っていない。嘘を吐くとバレるからな。このストーカーがどういう風に俺を監視しているのか分からないが、監視カメラの映像を見れるのは分かっている。……だったら、ドローンが壊れた事も知っていそうなものだが。
「何故遠出をした」
「休みの日は学生も「トイ・ダンジョン」を攻略しに行くからです。休みの日までクラスメイトと顔合わせるのは気まずいんで」
「本当にトイプチの卵は出なかったのか」
「出ませんでした。宝石だけです」
ふむ。確認がいつもより念入り、という事は……あぁ、そうか。俺がドローンを壊された「トイ・ダンジョン公園」では、あのおっさんが幅を利かせていた。だったら監視カメラの映像を確認するのは無理だったのかもしれない。
とはいえ、言葉の嘘を見抜く何かを用意していないとも限らない。だからこそ、いつも通りに対応しろ、というアドバイスか。まぁそうだな。俺は普段から嘘を吐かないから。
じぃ、と、ストーカーの目が微動だにせず俺に向けられるが、これもいつもの事だしなぁ。圧がすごいのも、1年半も続けば慣れる。慣れたくなかったが。
「……ふん。それが素直な申告であればいいんだがな。まぁいい。手に入れたら、かならず保冷剤等で孵らない様に保管して、提出する事だ」
もう平日は毎日聞いているお決まりのセリフを吐いて、ストーカーは立ち去った。……どうやら本当にドローンが壊されたことは知らないらしい。岩谷さんの推測は大当たりか。いや、外れるとも思ってないけど。
完全に立ち去ったのを気配で分かる限り確認してから、俺も歩き出す。そう。岩谷さんの推測は大当たりだった。そして俺からカツアゲする奴は、あと1人いる。
そう。大家だ。もちろんそちらに対してのアドバイスは貰っているが、これがまた骨が折れるというか、しんどいというか、マジでやんの? という感じだったのだが。
「この分だと、そうなるんだろうなぁ……」
まぁ恐らく、大家に対する推測も当たっているんだろう。疑っていた訳ではないが、そうならないといいなぁとは思っていた。
何しろ、まだ決行は先って話だったのだ。主にストーカーのせいだが、昨日の件で更に仕事を増やしてしまったからな。にもかかわらず、学校での正直な言い訳、ストーカーへのいつも通りの対応と違い。
「……正面対決か」
もうちょっと先だと思っていた、交渉決裂まで視野に入れた「戦い」をしろ、というアドバイスという実質の指示だったからだ。
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