第20話 するつもりのなかった抵抗2

 ドローン全壊。これを特に潜めていない声で口に出すと、教室がざわめいた。どうやら色々調べて俺の状況を知り「これはダメなんじゃないか?」と思ったらしい菅池の顔から血の気が引いていたが、たぶんあれは、土曜日にフルカスタムドローンの値段を聞いていたからだな。

 きっとあいつの中では、札束が暖炉に放り込まれているとか、大怪我を治せるポーション(超高額)が床に落ちて割れるとか、それこそ新車がスクラップされるとか、そんな映像が浮かんでいるんじゃないだろうか。まぁ、金額的にはそんな感じだが。

 流石にそこまで具体的な想像は出来てないんだろうが、ドローンについて詳しくなくても、何かを新調しないといけないっていうのは金がかかる、という事ぐらいは知っているらしい井内は、顔を引きつらせながら口をぱくぱくさせていた。


「悪いな、井内。お前も何か、それこそスマホとか自転車とかゲーム機が壊れたとかそういうピンチなのかもしれないが、俺は昨日の晩飯は炒めもやしだけだったし、今日の朝も食パン半分で済ませたんだ」

「も、もやし……ほんとに金に困ったらもやし食うんだな……」

「あぁ。何しろラーメン1杯分の体積を食っても50円いかないからな。そこそこ腹も膨れる」

「ごじゅ……」


 なので追撃として、食生活の節制具合を声に出す。分かりやすい例を出したからか、教室がさらにざわつくが、事実だしなぁ。

 もちろんちゃんと貯金があるし、現物の蓄えもあるにはある。備えは大事だからな。こんな形でとは思っていなかったが、ドローンは壊れるものだ。万が一に備えておくのは当然だろう。

 だが、俺のマンションの大家は家賃を盾にポーションを強請り盗る「敵」だ。大家の目を誤魔化し「ポーション入手無理」とちゃんと伝える為にも、この辺はちゃんとしておかないといけない。口に出すのは事実だけにしておかないと、見破られた時に詰むからな。


「むしろ、今までの分もお前らに助けて欲しいぐらいなんだぞ? 親友だろ?」

「いっ、いや、それは……!」

「そう言うなよ。助け合いは大事だよな? 俺は散々お前らを助けてきたんだから、俺がこれ以上なく困ってるんだから助けてくれるよな? 親友だから助けてきたんだ。親友なら助けてくれるよな?」

「たっ、大変だな! 機械の事は分かんねぇけど頑張れ! じゃあな!」


 うっすら笑みを浮かべて聞き返すと、慌てて無駄に手を振り回しながら井内は教室から出て行った。逃げたな。まぁ逃げるだろうと思って聞き返したんだが。それにどうも、俺の笑顔って言うのは恐ろしいらしいし。

 井内の足音が完全に聞こえなくなってから、特大のため息を吐いて笑顔を止める。たぶん明日来るだろう大山も同じように逃げるだろう。問題は水曜日に来る夏毟だな。

 あいつはそんな事知ったこっちゃないだろうし、それ以上に不幸があって大変だったと平然と嘘を吐くだろう。ま、持っていかれる宝石が1つならどうにか誤魔化しも出来る。日曜日の慣らし運転で手に入れた分があるのは本当だし。


「……ダメだ。自分で言ってもまだダメージ入る」

「おい、大丈夫か津和」

「何も大丈夫じゃねぇ……精神的にも財布的にも致命傷だ……」


 っは――――、と特大のため息を吐いて項垂れると、様子見を止めた菅池が寄って来た。それに正直に答えると、だろうな、みたいな顔で頷いている。そうだよ。なにも大丈夫じゃねぇよ。

 思ったより飯を削るのはダメージ入るな。かといって、買い物の量を減らして内容を変えないと、その辺チェックしてるらしい大家が何しでかすか分からん。貯金にまで手を出される訳にはいかない。本気で詰む。

 こっそり別の物を作って食べようにも、あの大家、大家だから電気とかガス、水道の使用料金を見てるっぽいんだよなぁ。前にドローン用の珍しいパーツが手に入ったから浮かれて、ちょっといい肉を買って食べてたら、そんな贅沢する余裕があるなら買って来てでもポーション持ってきなさいよ! ってキレ散らかしてたし。

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