第19話 するつもりのなかった抵抗1

 俺は学生なので、特に何も無い月曜日は学校に行かなければならない。ぶっちゃけ家を出て1人暮らしする為に出来るだけ遠い高校を選んだだけだから、高校自体にはあんまり思い入れは無かったりする。

 ただ留年なんて事になれば親に連絡がいくし、親が見ていなければならないとして家に連れ戻されるのは明白だ。最悪、今のマンションに押しかけてくる。それをやりかねないのが俺の親だ。

 だから絶対に赤点は回避しなければならないし、遅刻も論外ながら生活態度も品行方正でなければならない。バイトの許可はすっかり「トイ・ダンジョン」……1m四方に収まる土色のゴツゴツした岩が盛り上がった真ん中に穴の開いた、サイズを除けば実にそれらしい洞窟……の攻略でのみ効果を発揮しているが、外で問題を起こす訳にはいかない。


「よーうカズ! 今日も世界は平和だなぁ!」


 そんな訳で、俺の授業態度は実に模範的だし、宿題の類もちゃんとやっている。抜き打ちの小テストだって点数が半分を切った事は無い。何しろドローンを作るには山ほど覚える事があるからな。

 ただ今日は月曜日だ。つまり週が変わっている。という事はつまり、未成年がやる分には1週間に1個しか売却できない「トイ・ダンジョン」から見つかる宝石の、売却制限期間が切れたって事だ。

 となればまぁ、俺からカツアゲしてくる奴らがたかってくる訳で……馴れ馴れしく声をかけつつ俺の机に手をついて、俺を壁と自分の間に挟んだのは、井内だった。


「生憎俺は全く平和じゃないよ」

「なんだよどうした? 俺ら友達だから聞いてやんぜ? ほーれ話してみ」


 とか言葉ではらしい事を言いながら、その目と口は俺を叩く口実を見つけたとばかりに歪んでいる。もしくは弱みを握るチャンスとでも思ったか。

 残念だったな。


「昨日ドローンが壊されたんだよ?」

「はぁ?」

「「トイ・ダンジョン」の探索用ドローン。土曜は掃除で終わったし、気合入れて探索するつもりだったのが、様子見の1回しか探索できなかった。大赤字だ」

「はあ!?」


 正直に告げる。俺の相棒であるドローンが壊されたのは本当に痛い。精神的にも財布的にも。昨日は家に帰るまではストーカーが増えるかもしれないと思って緊張の糸を保つことが出来たが、結界札を張ってある家に辿り着いたらダメだった。

 お陰で今日は眠くて仕方なかった。授業中の居眠りは回避したどころか、何人かの先生には「今日は帰るか?」と心配されたぐらいだ。クラスメイト達も、俺の様子がおかしいのは分かっていて、この会話も聞いているだろう。

 ……つまり、井内が俺から「トイ・ダンジョン」産の宝石をカツアゲするなら、それは大勢に知られることになる訳だ。そもそもこの井内は、大山と共に夏毟の腰ぎんちゃくをしている。だが、こいつらに渡せる宝石は1つしかない。


「なん……い、いや、それは大変だったなぁ! でも俺の方も大変でさ、なぁカズ、何とかならねぇ?」

「無理だ。木曜日の放課後に探索した分はトイプチの卵だったし、金曜日の分はもう売って家賃の支払いに充てた」

「け、けどさぁ……そのさぁ……」

「ドローンは木っ端みじんになってたんだよ。ドローン嫌いのおっさんがトイプチのゴーレム嗾けたみたいだから、手の施しようがない全損。「トイ・ダンジョン」に呑まれるのといい勝負だ。それでも、なけなしの貯金はたいてドローンを新調しないと生活できないし」

「それこそ親にでも言えばいいじゃねーか。なぁ?」

「親に言ったら俺は次の週にでも転校する事になるな。元々かなり頑張って勝ち取った1人暮らしだから、間違いなく家に戻される。流石に片道6時間は通学できない」

「は? ろく、お前ん家そんな遠いのかよ!?」

「そうだが?」


 それでもなお食い下がる井内。無理だっつってんだろ。実際は宝石もポーションも、家の「トイ・ダンジョン」に湧いた分から出たのは保管してあるし、トイプチの卵は岩谷さん経由で売ってもらってるが。

 うん。俺はトイプチを連れ歩くつもりは無いんだ。ストーカーである藻久に奪われるまでもなく。何故なら「トイ・ダンジョン」をドローンを操作して攻略するのが好きだからな。

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