第一章 世界の命運を握る巫女

ある大司教の備忘録

 エイチェル・カンは奇跡を目の当たりにして恐れをなし、首都から立ち去った。以後、世界は法王により統治され、現在に至るまで創造主の加護で大陸は保護されてきた。


 悪魔の王エイチェルは死に際にこう言ったらしい。


『私は死なぬ! いつの日か肉体を蘇らせ、お前たちの犯したの報いを受けさせる!』


 そして今、遥か東にある――世界をあらゆる災いから守るために建てられたの向こう側から、角の生えた蛮族がこちらに向かってきているとの情報が、法王庁にもたらされた。


 これは偶然か? 

 東の空が暗くなり、雷鳴が轟き、その度にちらちらと光る物が見えたそうだ。

 また、彼らは武装した連中との報告があった。

 それもしているとのこと。


 思い過ごしならよいが……。ひとまず、私は法王猊下げいかに進言した。


『彼らと連絡を取りましょう。を突破してきているのであれば、この事態を看過してはなりません』


 猊下げいかはお答えになった。


『君が行きなさい』


 猊下は首都ラティニアにある城砦に入り、その日は誰とも顔を会わせようとなさらなかった。


 私が出発しようとしたその時。猊下のお体を診た医者が告げてきた。


『猊下はに怯えていらっしゃる。それにこうも呟いておりました。


 『カンよ。お前は滅せられるべきなのだ!』と。


 あなたなら、猊下のお言葉の真意がお分かりになるかと思いまして」


 私は『分からない』と答えておいた。その言葉の裏にあった真実に心当たりはあったが、打ち明けることはできなかった


 それが公にしてはいけない、なのだから。


ロンダルギア公国の大司教 プレトンの備忘録

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