第一章 世界の命運を握る巫女
ある大司教の備忘録
エイチェル・カンは奇跡を目の当たりにして恐れをなし、首都から立ち去った。以後、世界は法王により統治され、現在に至るまで創造主の加護で大陸は保護されてきた。
悪魔の王エイチェルは死に際にこう言ったらしい。
『私は死なぬ! いつの日か肉体を蘇らせ、お前たちの犯した不正の報いを受けさせる!』
そして今、遥か東にある鉄門――世界をあらゆる災いから守るために建てられた魔法の門の向こう側から、角の生えた蛮族がこちらに向かってきているとの情報が、法王庁にもたらされた。
これは偶然か?
東の空が暗くなり、雷鳴が轟き、その度にちらちらと光る物が見えたそうだ。
また、彼らは武装した連中との報告があった。
それも千年前の蛮族が装備した物と一致しているとのこと。
思い過ごしならよいが……。ひとまず、私は法王
『彼らと連絡を取りましょう。蛮族を消滅させる魔法の門を突破してきているのであれば、この事態を看過してはなりません』
『君が行きなさい』
猊下は首都ラティニアにある城砦に入り、その日は誰とも顔を会わせようとなさらなかった。
私が出発しようとしたその時。猊下のお体を診た医者が告げてきた。
『猊下は見えない何かに怯えていらっしゃる。それにこうも呟いておりました。
『カンよ。お前は滅せられるべきなのだ!』と。
あなたなら、猊下のお言葉の真意がお分かりになるかと思いまして」
私は『分からない』と答えておいた。その言葉の裏にあった真実に心当たりはあったが、打ち明けることはできなかった
それが公にしてはいけない、葬られるべき不都合な歴史なのだから。
ロンダルギア公国の大司教 プレトンの備忘録
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