第一章 世界の命運を握る巫女

ある大司教の備忘録

「エイチェル・カンは『奇跡』を目の当たりにして恐れをなし、首都から立ち去った。以後、その代表は『法王』の座に就き、現在(=物語開始時点)に至るまで創造主の加護により大陸は保護されてきた」


「だが、悪魔の王エイチェルは死に際にこう言ったと伝わっている。


『私は死なぬ! いつの日か肉体を蘇らせ、お前たちのした不正の報いを受けさせてやるからな!』


 そして今、世界の遥か東にある――世界をあらゆる災いから守るために建てられたの向こう側から、角の生えた狂暴な蛮族がこちらに向かってきているとの情報が、法王庁にもたらされた」


「果たして、これは偶然か? 東の空が暗くなり、雷鳴が轟き、その度にちらちらと光る物が見えたそうだ。その輪郭から彼らは武装した連中との報告があった。それもしているらしいとのこと」


「思い過ごしならよいが、何もしない訳にはいかない。そこで私は、法王猊下げいかに進言した。


『東から迫る者と連絡を取りましょう。を突破してきているのであれば、この事態を看過してはなりません』


 すると、猊下げいかはこうお答えになった。


『なら、君が行きなさい』


 そう言うと、猊下は首都ラティニアにある城砦に入り、その日は誰とも顔を会わせようとはしなかった」


「そして、私が出発しようとしたその時。猊下のお体を診た医者がこう告げてきた。


『猊下はに怯えていらっしゃる。それにこうも呟いておりました。『カンよ。お前は滅せられるべきなのだ!』と。あなたなら、猊下のお言葉の真意がお分かりになるかと思いまして、お話した次第です」


「私は嘘をついた。『分からない』と。その言葉の裏にあった真実に心当たりはあったが、それを彼に打ち明けることもできなかった」


「それは公にしてはいけない、葬られるべき不都合な歴史なのだから」


――ロンダルギア公国の大司教 プレトンの備忘録

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