冷酷な将オルドリン
城壁の
「こんにゃろう!」
ポロアミア住民が農具を持ったまま梯子を上ってきて、歩廊の兵士たちに襲い掛かってきたのだ。先ほどまで迫害される側の人間が、今は迫害する側となった。
騎士団の横暴を力をし、ポロラミア住民――戦闘技術を知らない彼らは暴力集団へと変貌。鬼気迫る表情からは死をも恐れぬゾンビのような不気味さを感じさせる。
「くたばれ!」
だが、気力だけでは騎士には勝てない。最初こそ農民集団に恐れをなした団員達は、瞬く間に立場を逆転。殺戮する側に戻った。
「これで全部か」
全身血に
(おかしいぞ)
こんな数で城を落とせるはずはない。それに梯子を彼らが用意したとも考えにくい。
ということは、彼らに城攻めを指示した者がいるはず。だが、何の意味が? 農民を無駄死にさせることに、何かメリットが?
コンラートには無意味に思えた攻撃だが、敵の首領にとっては意味のある行為だった。彼らの死が自軍の戦力増強に繋がるからだ。
その真意は後程明らかになるが、今は騎士団を待ち受ける悲惨な末路を述べておきたい。
「空が!!」
首を上に向ける騎士団員。空から降り注ぐ死の雨。それは数時間前に見せられたものと同じ。その落下速度は速く、彼らに逃げる隙を与えなかった。
まき散らされた炎の矢が、彼らの防具を貫き命を奪っていく。幸運にも命中しなかったコンラートは、それを目の当たりにし、
「おお、神よ……」
と呟いた。仲間はもがき苦しみ、城内にある井戸へと走ろうとするも、全身を焼かれた彼らに力は残されておらず、その道中で倒れていく。もはや救いなどなかった。
城門は閉じられていた。団員に逃げ場はなかった。火の海になりつつある城内を見て、コンラートは決断を下す。
「馬に乗れる者は乗れ!」
彼は生き残りの部下たちに呼びかけ、騎士としての
コンラートは告げる。
「東の城門を開け、敵に突撃をかける。敵は悪魔の軍勢。交渉の余地などない。なら、我々は騎士としての最期を見せてやろうじゃないか!」
絶望に包まれている状況にあっても、生き残った彼らのプライドは折れてはいなかった。右手の脇に長さ五mのランスを挟み、扉が開かれると同時に、
「突撃ーー!」
コンラートの号令一下、騎士たちは東に戦陣を組み待ち構えていた敵軍へと、
「名誉の死を神は望んでおられるぞ!」
騎士団長の叫びとともに、数千の敵の群れに突っ込んでいく。中には敵に突入できた者もいたが、所詮は寡兵の攻撃。
「何が名誉の死だ」
コンラートの耳に届く冷たい声。胸に刺さる矢。ドスンと地上に落ちる彼の体。噴き出す血液に、青くなっていく顔。近づく死の瞬間。
「お前らの死は無駄死にだ。何の意味もないし、お前たちの信じる神も祝福なさらんさ」
自分たちの行いを否定されて、気落ちしない人はいない。この時のコンラートがそうだった。
「この……悪魔め……」
そこまで言わせてから、コンラートに矢を放った敵将は嘲った。
「ああ、そうさ。俺は悪魔だ。お前達が創り出した悪魔だよ」
言い終わると同時に、コンラートの心臓に剣が突き立てられた。
こうして、騎士団長は戦場で命を落としたのだった。
◇
ポロラミアの平原は、地底の民により制圧された。騎士団員の遺体がそこら中に転がり、対する敵の死者は僅か。そして、それらに混じるのは植民活動の犠牲者が万単位。
絵画には描けそうもない、地獄の光景だった。
「ハン様」
戦闘終了後、騎士団員の亡骸を確認していた兵士の一人が尋ねた。
「なんだ」
「なぜ、奴らにわざと攻撃を許したのですか? 矢は十分にありました。突撃など簡単に止められたはずでは」
「分かってないな」
敵将は人差し指を顔の前に出し、左右に振りながら言った。氷のような眼差しを見せて。
「かすかな希望を与えてやったのさ。『一矢報いることができるかも』と。そして、その儚い希望を根こそぎ奪ってから殺す。絶望に突き落とされながら死ぬ奴らの顔は、そう拝めないからな」
悪魔の軍を率いる将の言葉に、味方の兵士たちも肝を冷やした。
「騎士どもの遺骸から武具を剥ぎ、野晒しにしろ。
「は、オルドリン様!」
死んだ騎士に一片の敬意を払わず、遺体に辱めを与えるように指示した者の名はオルドリン・ハン。悪魔の王エイチェルの弟で、実働部隊の総大将。
そして、悪魔と人間のハイブリットであり、千年前の恨みを原動力として侵攻を続ける者だ。
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