新たな騎士の加入

「遅れて申し訳ありません」


 そう言って現れたのは、ヴェレダの弟アルトゥールだった。


「なんだ、君は?」


「今日から騎士になる、アルトゥールといいます」


「あん? おい冗談はよせ。じゃあ、昨日までは何してたんだ」


「村の鍛冶屋です」


「鍛冶屋? おい、剣を振るったことがあるのかよ」


「ありません」


 ローラントは笑い出した。明らかに馬鹿にした態度で。


「鍛冶屋が戦えるかよ。僕達は訓練を積んできてるが、君は違うだろ?」


「はい、お恥ずかしながら」


「返り血を浴びたことは?」


「ありません」


「戦傷を負ったことも?」


「ありません」


「じゃあ、戦場の空気を吸ったことも――」


「……ありません」


 段々と声が小さくなっていくアルトゥール。反比例して横柄になっていくローラント。彼は自尊心の強さからか、無茶をやろうとしている巫女の弟を責めた。


「足手まといになるだけだ。ここに残れ」


「ですが、姉さんが――」


「この巫女様なら、僕たちだけで目的地に送り届けてやるさ。心配しなくていい」


「そうはいきません。俺は姉さんが心配なんです」


「ぎゃあぎゃあぎゃあ、うるせえぞ! 小僧!」


 ローラントが本性を露わにした。彼はアルトゥールの服の袖を掴みあげると、


「僕はな、乙女たちの歓声を浴びながら馬上槍試合をやってる時に、急な密命だと伝えられて、この田舎臭い村に来させられてんだ。正直うんざりしてんだよ!」


と騒ぎ出した。


 ローラントは四人の騎士の中でも特に粗暴だった。しゅっとした顔立ちにブロンドの長髪もこうなっては台無し。おまけに堪え性もないようで、彼は片時も腰に下げた剣の柄に手をかけたままだった。下手をすれば、アルトゥールを斬りつけかねない勢いを見せていた。


「やめるんだ」


 二人の間にテオドリクスが入り、両手で彼らを遠ざけた。たまらず、ローラントが目上の公爵に食ってかかった。


「おやおや、公爵閣下は鍛冶屋の肩を持つんですか」


「無論だ。ヴェレダさんからのお願いなのでね」


「どうして、閣下に決定権がおありで?」


「俺ではない。ヴェレダさんが『弟の同行がなければ、私は行きません』とお話して、それがハインリヒ皇帝陛下に認められたのだ」


 ローラントは何も言えなくなった。皇帝に対しての異議申し立てはできなかったからだ。彼は納得のいかない様子ではあったが、


「ふん、なら精々頑張りな」


とアルトゥールに捨て台詞を吐いて、村の中央広場から立ち去っていった。


「さて、アルトゥール君」


「はい」


「君の『お姉さんを守りたい』と思う覚悟をより強くするために、叙勲式を行ってから出発したい」


「叙勲式?」


「剣で肩を叩いてもらうのさ。うちも最近やってもらったばかりだから、教えてやれるよ」


 傍で見ていたマルグレーテが作法を教えると言い出した。その隣にいたカミーユも「協力しよう」と呟いた。


「さあ、始めようか」


 テオドリクスの声掛けで、叙勲式が行われる運びとなった。ただ一人、機嫌を損ねたローラントは加わろうとはしなかったが。

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