第二章 騎士団の結成

騎士の集合

 オラブ村を物々しい空気が満たした。


 異教の巫女を守るために集められた、四人の騎士。


 彼らは生まれが違うのみならず、その性格もバラバラ。その一人一人が盲目のヴェレダに近づき、彼女の手の甲に口づけ――騎士流の挨拶――をしていく。


「どうも、こんにちは。目の見えないカワイ子ちゃん。僕はナーバルのローラント。ああ、君はなんて不幸なんだろう! こんなに美しい僕の顔を見られないなんて」


 一人目の騎士は、ヴェレダに十秒以上の口づけをした。彼からは己に対する自惚うぬぼれ、過剰な自己愛、他者へのさげすみが見て取れた。


(この方は、多くの女性とお付き合いしているのかしら? 香水が混じった匂いで少々気持ちが悪くなるわ)


 ヴェレダにとって、ローラントの第一印象は良いものではなかった。


「こんにちは、ヴェレダさん。俺はロンダルギアのテオドリクス。先ほどの男とは違うからご安心を。あなたを傷つける者には容赦しませんので」


 二人目の騎士は、法王庁から北にある国の領主テオドリクス。気品のある、模範的な騎士だった。彼は髭を剃り、頭髪も自分で整えている。そこにはローラントのような粗野な印象――事実、ローラントの心は異性を狙う野獣のようだった――は微塵もない。


(このお方は少し汗臭いわね。戦いを終えたばかりなのかしら?)


 また別の騎士が彼女に口づけをする。


「ちゃーっす! うちは男じゃねえけど騎士にさせられた、ラプタルラントのマルグレーテってんだ。ちょっと前までは……おっと、この話は道中でしようかねえ」


 三人目の騎士は、口調からして既に騎士らしからぬ女性。普通、騎士は男がなるものだが、彼女には何やら特殊な事情がありそうだ。


(お魚の匂いが微かに……漁村の生まれでしょうか?)


 ヴェレダの問いに彼女は答えず、すぐさま別の騎士がゆっくりと手を取り口づけをする。


「カミーユだ。よろしく」


 簡単な自己紹介で済ませたカミーユと言う名の騎士は、全身を分厚いキルト生地の衣服に身を包んでおり、肌を一切露出していない。頭部も同様で、彼は顔面に鉄の仮面を装着している。


「たくっ、不気味な野郎だ」


 カミーユの後ろにいたローラントが思わず言った。顔すら覗かせない人間に、異様さを感じるのは無理からぬこと。だが、ヴェレダはある事に気付く。


(私の肌に直接触れずに口づけを……? 手袋を外すことができない、何かの病気なのかしら?)


 騎士の挨拶をし終えると、ローラントが皆に尋ねた。


「おい、五人の騎士が集まると聞かされて来てみれば、四人しかいないぞ。まさか、怖気づいて職務放棄か。騎士の風上にも置けないな」


「ローラント卿。口を慎んでくれ。その辺りは俺が説明する」


「あんだよ、公爵だからって偉そうに」


 ローラントは爵位の関係上、テオドリクスに逆らえないことを苦々しく思った。ちなみに、今ここにいる騎士の爵位は上から順にテオドリクスが公爵、ローラントが伯爵、カミーユが子爵、マルグレーテが男爵だ。


「お聞かせください。公爵閣下かっか。私も気になっていた」


「ほら、カミーユきょうもこう言っている。説明が必要だろ?」


 言葉少なではあるがはっきりした物言いのカミーユに、ローラントは口をへの字に曲げて引き下がった。


「最後の一人は……俺の顔見知りでね。法王|猊下の密命を遂行するために到着が遅れるそうだ。あと、我々は彼が来るのを待つ必要はない、と言伝ことづてを受けている」


「てことは、僕たちだけで出発していいってことか?」


「そうだ、我々は騎士四人と――」


 ヴェレダの耳につんざくような高音が響いてくる。それは武装した男たちが生み出す、金属の調べ。


「従者が二千。それともう一人を加えて出発だ」


 テオドリクスはある男の準備が終わるのを待った。

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