第110話
僕は案内役の筈だが、逆に半ば連行されるように会場へと辿りついた。
そもそも地理を熟知しているベゼル様を案内する必要などどこにもない。
そして仲介するまでも無く、彼が歩けば道も門も否応なく開く。
当然だ、顔を知らぬ者など居る筈もない。
失踪の件や疑惑があるとはいえ第二王子なのだから。
つまり本当に僕は本当に連行されただけなのだ。
しかし、ここまで目立つ事態となればリオン様陣営に伝わっていない筈も無いだろう。
会場に入ると、大きなどよめきが起こる。
それもまたまた当然の事。
ずっと姿を眩ませていた第二王子がこのタイミングで、この場に現れたのだから……。
眼前の民衆たちは騒めきながら、裂けていくかの様に道を開けた。
リオン様の立つ壇上へと――
この事態に応対するのはリオン様の護衛部隊。
親衛隊だけではなく、軍の精鋭と合同編成した大編隊だ。
彼らは待ち構えるように道を塞いでいた。
「いやはや、歓迎されていて嬉しいね」
遠くに居るリオン様を見て訴えるベゼル様。
とても肉声では届かぬ距離、ここでも拡声魔術が使われていた。
今の所作で感じたが、術者はベゼル様自身だろう。
「国を捨て、父の死に目にも顔を出さぬ無礼者がっ!!今更何の用だ」
負けじとリオン様も応対する。
「それについては返す言葉も無いですよ。まさかそんなに早く逝ってしまうとは思っていませんでしたのでね」
ベゼル様はそう言いながらも、歩みは止めなかった。
ローブを身に纏った者達は後に続く。
果たして僕も進むべきなのだろうか?
僕まで仲間だと誤解されてしまいそうだが……。
ローブの者達の顔を確認した訳では無いが、少なくともトールスは居なかった。
それくらいは顔を見ずとも近距離ならば魔力で分かる。
同行したのは5名。
魔力の程は感じ取れる。
皆それなりの手練れである事は間違いないだろう。
やはり狙いはクーデターか……?
正面にはリオン様の護衛部隊。
うん、僕は少し離れたしんがりを務めさせていただこう。
決して臆している訳では無い。
誤解を避けたいだけだ。
やや手遅れな感もあるが……
「貴様のその横柄な態度が問題だと言っているのだ!!いったい何を目論んでいる!!?」
リオン様の言葉に足を止める事なく進み続けるベゼル様。
「そんなに警戒しないでくださいよ。今日は素直に祝いの挨拶をしに来ただけです。新デアラブル王」
嘲笑しながら答えるベゼル様。
護衛部隊は戸惑いながらも身構える。
「ベゼル様、止まって下さい!でなければ私たちはっ」
衛兵の一人は身構えベゼル様に訴える。
その言葉にベゼル様は形相を変えた。
衛兵はうろたえ、後ずさりする。
「たかが雑兵ごときがこの俺に指図するのか?それが、どういうことか分かっているのか?」
静かに凄むベゼル様に気圧された衛兵は、完全に戦意を喪失していた。
ベゼル様の実力は知らないが、単に個人の戦闘能力だけを考えれば衛兵との差はさほど無い気はする。
だが、ベゼル様にはどこか不気味な威圧感と迫力がある。
王族だからという訳では無いだろう、個人の素質だと思う。
そしてそれが、リオン様との決定的な違いである。
「構わん。王として最初の命令だ!その無礼者を捕えよ!」
リオン様は高らかに宣言する。
命令とあっては動かぬわけにはいかないのが兵士。
「……まったくもって、愚かだな」
ベゼル様は呆れたように呟いた。
「申し訳ございません、ベゼル様。王の命令である以上、我々は従う他無いのです」
先の衛兵とは別の衛兵がベゼル様に言った。
「ああ、構わんよ。俺としては事を荒立てるつもりは無かったんだがな……」
ベゼル様がそう言った直後、つい先ほど言葉を発した兵の頭部が消えた。
あまりに一瞬の出来事であった為、そう錯覚したが、正確には吹き飛ばされた。
飛び散った破片を見る限りそう推測できる。
吹き出す鮮血。
その光景を目の当たりにし、会場内は鎮まりかえった。
一拍置いて、民衆の誰かが悲鳴を上げた。
一瞬にして狂乱が広がる。
会場内はパニックだ。
民衆は悲鳴を上げ、何が起こったのか理解できていない者達まで、会場を逃げ出そうとした。
衛兵も何が起こったか理解できぬまま、ベゼル様を捕えようとするが、平常心を失った民衆に邪魔され動きを制限される。
一方でベゼル様達は、歩みを止めることなくリオン様の元へ向かう。
衛兵、民衆問わず目の前にいる障害物を薙ぎ払いながら。
その光景が、より会場内を混乱させていた――
我先に外に出ようと争う民衆――
ベゼル様を捕える為、剣を振るい、民衆すらも斬る衛兵――
鎮まるよう訴えるが、状況を変えられず、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるリオン様――
愉しそうに微笑を浮かべているベゼル様――
その後ろを着いて歩くローブの者達――
立ち止まったまま動けない僕――
まさに地獄絵図だ。
ベゼル様は最初からこの状況を作り出そうとしていたのか?
本来なら僕もベゼル様を止めるべきなのだろうが、傍観する事しか出来なかった。
何処か既視感を覚える、この絶望的な光景を……。
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