第108話


 リオン様の新デアラブル王即位式典、当日。


 絢爛豪華に城も城下町も彩られ、国民も賑わっている。

 盛大な祭りの雰囲気自体は嫌いではない。

 傍から見れば、ここに黒い意志が渦巻いていることなど想像出来ないだろう。


 だが、確実に悪意は存在していて、事件が起きないと断言はできない。

 だからこそ警備に手を抜くわけにはいかない。

 今日の式典を無事にを終わらせることが、アルレ様や仲間を護る事に繋がると信じている。



 ガウェン様の提案通りアルレ様は出席を取りやめた。

 リオン様の許可も得たという。

 ガウェン様の事だ、その辺は角が立たぬよう上手くやったのだろう。


 アルレ様不参加という形ではあるが、親衛隊員は会場警備とアルレ様の身辺警護の二手に分かれた。

 身辺警護の指揮はミレイに任せ、会場警備の指揮は僕が執る事になった。


 そして現在、僕は隊員達に指示を出している最中だ。



 「精が出るね。セルム隊長」


 背後から突然声を掛けられ振り向くと、そこにはウォレンが居た。


 「なんだ。ウォレンか」

 「”なんだ”って言われちまうと少し悲しいな」

 「悪い意味じゃないよ、安心したって意味さ。何しろ胡散臭い連中が多くてね」

 「それは仕方ない。大出世したんだからな。気が付いたら俺より上の立場になってるし……いや、皮肉じゃないぜ?」

 「……大出世か。別にこういうのを望んでいた訳じゃないから素直には喜べないよ。それにウォレンより上だとも思っていない」

 「すまん。言い方が悪かった」


 ウォレンは頭を下げた。


 彼にはトールスとの一件を話してある。

 その事を気にしているのかもしれない。


 「いや、気にしないでよ。ただ出世と言われても実感が湧かない。僕は何の功績も立てていないし、ただアルレ様の傍に長くいたというだけだから」

 「何の功績も立ててない事は無いだろ?武功こそないが、アルレ様が地位や信頼を落とすことなく上手く立ち回ってこれたのは、お前の力も大きい筈だ」

 「それも僕だから出来た訳じゃ無い。アルレ様自身でも十分出来た筈だ」

 「お前がそう言うならそうなのかもな。ただ、俺だけはそう思っていないってだけの話だ」

 「それに僕は重大なミスもしている……」

 「重大なミス?」

 「ああ。今日この場にアルレ様が出席していないというのは、結局のところ僕の失敗でしかないんだ」


 僕は賑わう城下町を眺めた。


 即位式典の欠席自体はどうでも良い事。

 ただ、そこに至る原因としてアルレ様が王位継承権を得たという事が深く関わっている。

 それにより、本来味わう必要のなかった苦労を掛けているのかもしれない。



 「アルレ様がそう言ったのか?」


 ウォレンは静かに問い掛けてきた。

 ベゼル様失踪事件の後もウォレンとは交流がある為、真意を理解してくれていると思う。

 

 「……いや、何も」

 「なら、それはお前の考え過ぎで、ついでに傲慢だ。王族に生まれた以上は利権争いを避けられない。そのくらいの覚悟はあるだろうさ」

 「そうなんだけどさ……」

 「……さて、俺も持ち場に戻らないとな。ゆっくり遊んでいられるほど暇な訳でも無いしな」

 「そっか。気を付けて」

 「お互いな」


 ウォレンはそう言って背を向けた。



  ◇  ◇  ◇



 王城の庭園に用意された会場……では無く、そこへ続く城下町の街道を警備しているのが僕を含めたアルレ様親衛隊員だ。

 アルレ様が欠席である以上、どこを護ったところで大差は無いのだが、軍の雑兵と同じ扱いを受けるとは思わなかった。

 ある意味リオン様らしい対応。

 出来るだけ僕を遠ざけておきたいのだろう。


 親衛隊長となった僕は、リオン様とは以前にも増して険悪な関係を築けている。

 当然、僕には敵愾心も無く、無礼な態度もとっていない。

 リオン様が勝手に嫌っているだけだ。

 だがアルレ様の手前、口を出すことも出来ない。

 もし、アルレ様に何かあったら真っ先に処罰されるのは僕だろう。

 つまり、アルレ様を護る事は自身を護る事にも繋がっている。


 会場の警備はガウェン様達やウォレンに任せておこう。

 量も質も上だし心配は失礼にあたるかもしれない。


 僕のやるべき事はその芽を見逃さず、事前に摘み取る事だ。

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