第107話
ガウェン様の発言に鎮まる室内。
それも当然だ。
王族であり継承権すら持つアルレ様が新王即位式典に出席しないというのは異例どころの話ではない。
その行為自体が謀反の意志有り、と捉えられてもおかしくは無い。
「いくら何でもそれは……」
僕は動揺しながらも反論を試みる。
「私が説明すれば、リオン様は了承すると思いますよ」
僕の言葉を遮るようにガウェン様は言う。
ガウェン様が何を言うのかは察しがつく。
僕の想像通りならば確かにリオン様は納得するだろう、シスコン全開だし。
だが事情が事情なだけに公表は出来ない。
その場合民衆の目にアルレ様はどう映るのだろうか……?
「リオン様の了承が得られたとしても、反感を持つ者は出てくる筈です。それでは本末転倒では無いでしょうか?」
僕は食い下がる。
「その者達の意見はアルレ様が式典に参加するだけで変わるのですか?」
「そういう話ではありません。敢えて刺激する必要は無いと言っているのです」
「そうして体裁を取り繕う為、取り返しのつかない事態になっても良いというのですか?」
普段の温和なガウェン様ではなく、静かながらも厳しく高圧的だ。
「……どういう事態を危惧しての意見か伺ってもよろしいですか?」
言い争いのような、僕とガウェン様の会話にアルレ様が割って入る。
「当然の質問だとは思います。抽象的な表現が多く申し訳ありません。ただ、こちらも断片的な情報しか得られておらず推測の域を出ないのです。それを踏まえた上で言わせて貰えば、此度の式典、命を狙われる可能性が高いのはリオン様よりもアルレ様だということです」
「それは……」
アルレ様は険しい表情に変わる。
僕が懸念しているだけでなく、皆思っていながら口に出せずいた事。
当然、アルレ様も理解している筈だ。
「貴方は一部国民にとっては希望です、だからこそ同時に邪魔な存在でもあるのです。もしもそのような事があれば、国は大きく荒れ、犯人探しが始まります。真っ先に疑われるのはリオン派。表立った行動があるかは分かりませんが、少なくともリオン政権への不信感は募ります。その状況を作り出したい者達にとっては格好の舞台なのですよ、この即位式典が」
ガウェン様の言う事には概ね同意。
リオン派や不確定勢力だけでなく、アルレ派が実は危険。
アルレ様を政治の道具としか見ていないアルレ派連中の自作自演には願っても無い好機だからだ。
……ここでアルレ様を殺せば、神格化でき、偶像崇拝の道具として使える。
「仰る事は分かりますが、式典をしのいだだけで変わるものとも思えませんが?」
僕は納得しながらも、あえて質問を返した。
自問自答しているような錯覚に陥る。
「変わりますよ。リオン様が正式な王となればアルレ様を危険に晒す筈がない。……ただ、それがどのような形になるかまでは読み切れませんけどね」
「……まぁ、一応、納得は出来ます」
僕は静かに頷いた。
それはそれでアルレ様には気の毒な状況かとは思うが、命を狙われる危険度は下がるか。
その場合、僕の処遇に不安は残るが……
「もちろんアルレ様には不利益のないよう、私も協力するつもりではあります。どうか私を信じ、ご理解いただけませんか?」
ガウェン様は真剣にアルレ様を見つめる。
その瞳に狼狽え、縋るように視線を僕に移すアルレ様。
僕も逃げるように視線をミレイに投げようとしたが、ミレイは僕と目を合わせる気は少しも無いらしい。
この状況だと、流石に無言という訳にはいかないか……。
「一応、”僕個人”としては、ガウェン様の意見に賛同してもいいかなぁ、っという気がしなくもないかと……」
あくまで個人的な意見を述べたまでだ。
出来るだけ曖昧に、頼りなく……
反対意見を出すなら出して欲しい。
「”セルム”が納得するのであれば、私もそれを信じましょう」
アルレ様は静かに頷いた。
本当にいいの?と、心の中で焦る。
「有難う御座います。”セルムさん”のお陰で纏まりましたね」
ガウェン様は僕に微笑み掛ける。
「”セルム様”は英断されたと思います」
だんまりだったミレイも小声で言った。
ふと、皆が僕の名を強調しているようにも感じたが……
称賛されている筈なのに、何故か喜べない。
単に責任を全て押し付けられているような……
ルディーデ君は困ったように苦笑いを浮かべ視線を泳がせていた。
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