第105話
あれやこれやとバタバタしていると、新王即位式典が数日後に迫っていた。
城下町は賑わい、既にお祭りムードだ――
とはいえ、それもあくまで表面上のものであり、水面下では様々な思惑が交錯しているのを知っている。
僕達も周辺警備や護衛に抜かりの無いよう、細心の注意を払い準備を進めていた。
無事に式典が行われる事を心底願っている。
暴動を起こすとすれば”アルレ派”の方が可能性が高い、ように思える。
だが、単純にそうとも言い切れない。
リオン派の自作自演も考えられるのだ。
考えに至る理由の一つは、リオン様がアルレ様を溺愛しているということ。
リオン派にとってアルレ様はもっとも邪魔であり、危険な存在。
だが、先の理由から表立った行動は起こせない。
歯痒く感じている者も多いだろう。
さらに魔人至上主義者の多くは混血の存在ですら快く思ってはいない。
リオン様も魔人至上主義者であるのだが「混血でも本人が魔人を主張するならばそれを認める」と公言した。
そこには溺愛する妹の存在が大きい事は容易に想像できるし、間違いでもないと思う。
アルレ様さえ居なければ……と”純”魔人至上主義者は思っている筈だ。
そういった部分に便乗してくる可能性が高いのが、純魔人至上主義であり同時にアルレ様を快く思っていないイリス様。
彼女ならば、立場を利用し多方面に根回しも出来るだろう。
悪知恵が働くという噂も耳にしているし、用心に越した事は無い。
とにかく敵が多すぎて、どこを注視すべきかが難しい……
◇ ◇ ◇
「お久しぶりです……という程でも、無い人もいますね」
ガウェン様は笑みを浮かべながら言う。
「そうですね、隔月くらいのペースで会っていれば久しぶりというのは可笑しいですね」
僕はいつも通りの挨拶をして、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「なかなか顔を出せる機会が持てず申し訳ありません。加えて、いつもセルムが御迷惑を掛けしているようで……」
アルレ様は申し訳なさそうな表情でガウェン様に言った。
母親かっ!?
「お気になさらず。アルレ様も何かとお忙しいでしょう。小説の方はお楽しみいただけていますか?」
「はい!もちろん!続きが楽しみで仕方ありませんっ!セルムに任せておいては、とてもここまでの仕上がりにはならなかったでしょう」
アルレ様は嬉々として語る。
ガウェン様も嬉しそうに笑う。
「ならば良かったです。セルムさんからはダメ出しの愚痴しか聞いていなかったもので……少々不安になっていたのですよ」
「まぁ!セルム!!そんな事言っていたのっ!?」
「おおよそ、アルレ様が僕に言った事を要約して伝えたまでですよ」
僕がそう言うと、アルレ様は睨んできた。
「ははは、相変わらず仲が良さそうで安心しましたよ」
ガウェン様は笑った。
◇ ◇ ◇
ガウェン様は式典出席の為、セントラルに来た。
僕等と会う為に数日早く到着し、今は王城の来賓室にて会食をしている。
この場にはミレイも、そしてルディーデ君も同席している。
あれから数年経ったが、三者の関係性に変化があったとは考え難い。
そもそも会う機会が少なかった。
ミレイに心境の変化は無いと思うが、ルディーデ君はどうだろう?王女は?
いや、それこそ僕が心配する事では無いか。
余計なお世話というやつだ。
「セルム様。私に何か物申したい事でもあるのでしょうか?」
視線を感じ取ったのか、ミレイはこちらに視線を向けずに言う。
やや視線を泳がせすぎたか?
「いやいや、何も無いよ」
僕は焦って取り繕う。
ルディーデ君もバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「突然ですが、アルレ様。私達も歓談する為だけに早く来た訳ではありません」
ガウェン様の一言で場の空気が少し変わる。
「では、どういったご用件で?」
アルレ様もそれまでの緩んだ態度を変え、毅然とした態度で尋ねる。
「即位式典にて、我々エスト勢は王族護衛に志願させていただきました。その件について打ち合わせをしようかと思いましてね。アルレ様の親衛隊隊長と副隊長を交えた上で」
ガウェン様は僕等を見て静かに言った。
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