第81話
一足遅れてエストから帰還した僕は、王女の文句を聞くために部屋に赴いた。
当然ではあるが王女とミレイは部屋の中に居た。
澄まし顔のミレイと、仏頂面の王女。
となれば、この先の展開は想像がつく。
その前に、エストでの出来事をかいつまんで説明しておこうと、僕は先陣を切ってまくしたてる様に一連の流れを説明をした。
全てを包み隠さず伝えるのは得策でない気がして、一部脚色を加え、ファウダの事やベゼル様、ウェラール様に繋がる部分は伏せる事にした。
帰路の途中、違和感の無い話になるように必死で考えていたのだ。
ただ、辻褄合わせにもっとも苦労したのが国宝の件。
伝えずに済むならば、こんな厄介な代物の事は伝えたくなかったのだが、僕が隠し持っている訳にもいかない。
どんな反応を示すのだろうか……?
予想に反し、王女は怪訝な表情を浮かべた後「そうか」と言って、あっさり受け取った。
反応を見る限りどんな凄い物なのかを理解していない様にしか思えなかった。
むしろ異常に怖がっていた僕がおかしかったのか?
そういうものなのか?
まぁなんにせよ、僕としては都合が良い
「ガウェン様から一時的に預かり、時期を見て返却する予定の物です」と、念を押して説明し、絶対に紛失などしないようにと注意を促した。
もし紛失などあっては僕の責任問題云々どころではなく、想像すら及ばぬ程の大問題に発展しかねない。
ともあれ、一連の流れを報告し終え、一息ついて室内の椅子に腰掛けた。
「まったく、お主は厄介事に巻き込まれんと気が済まぬ性分なのか?」
王女は小言を言う気力も失ったのか、呆れた様子を伺わせる。
「僕個人としては平穏な生活を望んでいるんですがね」
「全ては日頃の行いが原因でしょう」
ミレイが冷ややかに横槍を入れてくる。
「何だよそれ?」
僕が不機嫌そうに答えたと同時に、ドアをノックする音が聞こえた。
王女の部屋に来客とは珍しい。
今日はパラネル先生の授業の日では無かった筈だが?
ミレイがドア前に移動し、ゆっくりとドアを開ける。
ドアの外を見たミレイは表情を顰めた。
表情はすぐに戻ったが、応対の言葉を発さない。
様子がおかしい事を察し、僕はミレイに近付いた。
ミレイが動揺した理由が判明し、僕も絶句した。
そこにはベゼル様が立っていたのだ。
「突然すまんな。アルレに話がある」
こちらの動揺など意に関せずといった様子のベゼル様。
「えっ!あっ、はい。アルレ様……ベゼル様がお見えに……」
動揺して声が裏返りながらも王女に伝えた。
声が聞こえていたのか王女も取り乱しながら椅子から立ち上がる。
「はっ、はい。すぐに準備をいたします。私はどこに行けばよろしいでしょうか?」
王女は焦った様子でベゼル様の前に姿を見せた。
「いや、ここで良い。中に入っても良いか?」
「えっ、ええ、はい。セルムさん、ミレイさん。すみませんが暫く外に出ていて貰っても……」
「構わん。二人共ここに残れ」
王女は僕等の退出を促したが、遮る様にベゼル様が言った。
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