第67話
王女は、母アルフレット様の話から語り始めた――
人族であるアルフレット様は、人魔間の和平運動が進む中、相互理解を深める為の外交役としてこの国に滞在していたそうだ。
細かい成り行きはまでは知らないらしいが、色々あって現魔王ヴォルグ様の目に留まり、王女を身に宿すことになったという。
だが、王女が生まれて暫くした後、両種族の関係が急激に悪化した。
自身の出生が原因であった可能性は否定出来ないと言っていた……。
結果、アルフレット様は王女を残し、人族の国へ強制送還されたという。
それから数年して両国は、なんとか大規模な戦乱に発展する事だけは回避した。
だがそれは和平とは言い難く、断絶に近い形で落ち着いた。
この辺りは僕も知っている近代史。
ちょうどその頃に、デアラブルに姿を現し始めたのがアルシェット様だという。
何故その頃に?という理由に関しては、王女も知らないと言っていた。
アルフレット様の弟という事実は魔王も認知しているという事なので、おそらく何らかの確証があるのだろう。
少なくとも、デアラブルに害為す者ではない(筈だ)。
アルシェット様は王女と会う度、自身が旅し見てきた世界の話をしてくれたと言う。
そういった経験が、王女を冒険譚好きにさせたのかもしれない。
そして、アルシェット様の未来視(自身では占術だと言っていたそうだが)は、国内の一部で高く評価されていたらしい。
その正確さは魔人のみならず、人族の要人(種族的に考えれば当然ではあるが)も、一目置いていたという。
だが、実際にそれが魔術によるものだったのかは、多少は魔術を知り、心得る者としてはいささか信じ難い。
魔術とはそこまで万能な力ではない。
基本的には近距離の物理干渉や、一時的な精神干渉が限界。
自分の事を棚に上げている気はするが、僕の得意分野も所詮は単なる物理干渉。
予知能力などという超常的な魔術は、発想すら出来ない。
僕の勝手な憶測だが、精神干渉系の魔術で人を操り、望む結果に誘導する?か、はたまた魔術などは用いず、世界を旅して得た情報を分析・調査・検証して、出した推論を語ったものではないか?と、考えていた。
一般論として、前者の可能性は低い。
長期間に渡り、多人数を操るなど現実的ではないからだ。
それに、選民意識のように聞こえてしまうかも知れないが、人族にそれ程の魔術が行使できるとも思えない。
その点、後者ならば曖昧な表現を交え、それっぽい推論を広い意味で語れば、近い結果を得られる事も有る。
当然、要人すら信用させられる説得力と正確さは必要で、それだけでも大したものではある。
ある意味では、魔術と形容して差し支えないかもしれない。
もし僕の推測通り、魔力の使い方を教えてくれた”あの人”がアルシェット様であるならば、少しだけ納得出来てしまう気もする。
彼には、人を信用させる不思議な魅力があったのだ。
ひとまず、その事は忘れ、王女の話の続き――
不定期ながらも度々顔を出していたアルシェット様がある日、冗談めかした態度で”進言”をしてきたという。
それが僕の事だった。
そして、それが最後の会話になったと……。
その数ヶ月後、アルシェット様の死を知った――
王女はひとしきり話し終え、疲れきった表情で、一息吐く。
それもその筈、王女にとって明るい話題はなかった。
とても楽しく語れるものでは無い。
訊ねた僕も多少の罪悪感を覚えた。
だが僕はもう少し、この場で訊いておきたい事があった。
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