第66話


 「結局のところ、アルレ様はアルシェット様の言葉を信じるのか、僕等を信じるのか、そういう話なのかも知れませんね」


 悪趣味な質問で僕としても不本意ではあったが、互いの不信感が募る展開だからこそ、はっきりとさせておきたいと思ったのだ。

 少し、ガウェン様の影響を受けているのかもしれない。


 「……いや、じゃが……そうではなく……」


 王女は尚も困惑している。


 「失礼かもしれませんが、何故そこまでアルシェット様の御言葉を気にされるのですか?」


 何年も前に亡くなったというアルシェット様の言葉を信じ続けている理由。

 そこに違和感を覚えずにはいられなかった。

 単純に慕っていたというだけでは説明が付かない気もする。



 「……叔父様は予見。”未来視”の能力があったのじゃ」

 「未来視っ!!何ですか!?それは」


 あまりに荒唐無稽な能力に驚きを隠せなかった。

 いくら魔術などとは言ってみてもそこまで万能なモノでは無い。

 未来を視通す力など”空想魔術”でしかない。


 「そのままじゃ。この先に起こる事、それを知る事が出来る」

 「いえ、それは分かりますが……。そんな馬鹿げた話を誰が信じると……」

 「信憑性が持てる程の精度じゃったからこそ父様も国も、その存在を隠しておったのじゃ。実際、懐刀とも言えたじゃろう」


 唖然とするしか無かった。

 それにガウェン様はそんな事を一言も言っていなかった。

 知らなかったのか?

 それどころか、死についても語っていなかった。

 どうにもおかしい。


 こうなってくると、王女を説得する事も重要だが、先ずは『アルシェット様』という方がどんな人物かを知らなくてはいけない気がしてきた。

 元々はそこが本題だったんだっけ。


 「っすみません。先ずは私にアルシェット様がどのような御方だったか教えていただく事は可能ですか?」


 断られる可能性を考慮しながらも訊ねてみた。

 何も知らないままでは考察すら出来ない。


 暫く、目を瞑り表情を顰めたまま王女は考え込んでいた。

 


 「……うむ、分かった」


 王女は目を瞑ったまま、覚悟を決めた様に頷いた。


 「……元より、全て話そうと思っておったのじゃ。少し順序が変わってしまったがの。先ずは、母様の事から話していくべきかもしれん」


 そう言って、王女は静かに話し始めた――

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