第61話
エストでの仕事を終え、セントラルに帰還している。
帰路につく竜車の中で色々と考え事をしていた。
ガウェン様達の協力を得て、小説も少しは書き進んだ。
だが、あまり芳しい進捗とも言えない。
何故なら、物語の方向性を決める主要人物”アーシェ”が何をしたいのかが決まっていないからだ。
ガウェン様は「その部分は我々の考えでは無く、王女自身が望む未来を参考にして作成しましょう」と言い出し、僕には”それ”を上手く聞き出せ、という難題を押し付けてきた。
僕は諜報員か何かだっけ?
加えて、個人的には小説作成に集中出来る心境では無かったというのも作業が進まなかった要因だ……
アルシェット様の件について、ガウェン様から聞かされた話は、僕の想定よりも少し上、いや、ズレた方向に位置するものだった――
まず、ガウェン様はかなり前から僕の事を知っていたらしい。
とはいえ、詳しく知っていたと言うわけでは無く、名を聞かされていた程度だと。
アルシェット様から「アルレがセルム・パーンという従者を連れてきたら、良くしてやってくれ」と頼まれていたという。
その言葉あっての今の状況かと、多少の合点がいく部分もあった。
そして、更に僕を驚かせたのは、後に続いた言葉――
僕が「世界の行く末を左右する存在になり得る」と、言っていたらしい。
流石に冗談が過ぎると笑い飛ばした僕だったが、ガウェン様は終始、真剣な表情のままだった。
もし僕がアルシェット様との関係について”何らかの推論”を持って尋ねてきた場合には、前述の言葉を伝えてくれと頼まれていたらしい。
早く伝えたかったガウェン様は、わざとアルシェット様の名前を出し、僕を煽っていたのだと……。
ただ肝心の”僕との接点”については、何も教えられていないとの事だ。
今更隠す必要も無さそうだし”それ”については信じることにした。
僕の推論は正しいのか?
そして、アルシェット様が王女に何を伝えているのかも、ガウェン様は知らないと言っていた。
だが、従者任命の裏にはアルシェット様の存在がある事は、ほぼ間違いない筈だ。
以前、王女がアルシェット様の名を伏せた事を考えると、何かしら後ろ暗い要素も隠されている可能性もある。
王女に対し若干の疑念を抱くと共に、僕が一体何だというのか?という事が気になって仕方ない。
謎は少し解けたのか?より深まったのか?
微妙な心境のまま、僕を乗せた竜車はセントラルへ入る。
◇ ◇ ◇
王城に到着した僕は、いつも通り門番に挨拶して中に入る。
門をくぐると、突然声を掛けられた。
「お待ちしておりました、セルムさん。さぁ、早く例の物を」
そこには、ミレイを連れた王女が立っていた。
前例の無い事に僕は驚きを越え、軽く引いた。
まさか、城外まで出迎えに来るとは……。
そこまで心待ちにしていたのか?
ってか”例の物”って、急に怪しげな会話に聞こえてくる。
変な風に王に伝わりでもしたら、それこそ大事になり兼ねない。
「あっ……はい」
あまり書き進んでいない後ろめたさと、アルシェット様の事を聞くべきか決断しきれていない心境であった為、浮かない表情で返事をした。
「どうしたんですか?気分が優れないのですか?」
王女は僕の顔を覗き込んでくる。
「あっ、いえ。取敢えず、立ち話というのもアレですので、お部屋に……」
僕はぎこちなく答えた。
「そう……ですね」
怪訝な表情を浮かべる王女。
僕等は城の中へと歩き始めた。
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