第23話
僕は城内の書物庫にて最終確認を行っていた。
来賓の確認、タイムスケジュール、来賓への贈答品……。
多分、問題は無い筈だ。
やや不安があるとすれば余興。
専門の業者に発注したが、何をやるのか未だ伝えられていない。
とにかく、出せる予算の限界まで金を積み、考え得る最高の出し物をっ!と、要求したのだ。
王女からの立案も無く、僕等にはそんな事を考えている余裕も無かった.
最終的には金にものを言わせた投げっ放し。
業者のうろたえていた様子が気に掛かったのだが、彼等もプロだ。どうにか形にはしてくれるだろう。
……と、信じている。
「あれ?パーンさんじゃないですか?」
声を掛けられ振り向くと、メイドのムルシュさんが居た。
「ああ、ムルシュさん。こんにちは」
「珍しいですね、書物庫に居るなんて。それより、誕生パーティーは大丈夫なんですか?」
「うーん。大丈夫なのか、大丈夫じゃないのかすらも分かりませんね。一応やれるだけやってはいるんですけど」
「ん?予定表ですか?」
ムルシュさんは近付いて来て僕の顔の横から予定表を覗き込む。
小柄ながら大きな胸が気になり、一応、避ける様に体を僅かに横にずらした。
「何か気になる所はありますか?」
「んー、特には無いと思いますよ?って、言えるほど私も詳しくはありませんけど……。ただ、余興は何をやるんですか?」
「えっ、余興ですか?」
「はい、来賓様はそれに期待し、楽しみにしている方が多いと聞きますし」
「そ、そうなんですか!?」
「そうですよ、催事に慣れている方々ばかりですから。そこだけを楽しみに来ている方もいるようですよ?」
「ほ、本当ですか?」
えっと去年は何をやっていたか……。
確か、数人の魔術士が遠隔操作で複数の楽器を生演奏するといったものだった気がする。
凄い事は凄いのだが、僕はそこまで驚かなかったので印象が薄い……。
「ええ、私も楽しみにしてます。この仕事の役得な部分ですから」
微笑む彼女を見て、僕の背筋は凍る。
基本の進行ばかりを気にしていた為、完全におろそかにしていた部分だ。
今の話を聞き、何をやるか知らないと言うのは大問題だと気が付いた。
単なる余興が最重要だとは……さすが貴族。
「ええっと、それはまだ内緒です。あぁっ、そうだ、仕事を思い出したので、失礼しますね」
「えっ?あっ、はい。期待してます。頑張って下さいね」
「有難うございます。頑張ります」
僕はムルシュさんに簡単に挨拶すると、目の前の荷物を乱雑に片付け、急いで書物庫を出た。
向かう先は、依頼した業者の店舗だ。
◇ ◇ ◇
依頼した業者の店舗に到着したが、臨時休業となっていた。
誕生パーティーの準備に全力を注いでいるのだと信じたい……。
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