第24話
「どうしたセルム?顔色が悪いぞ」
「えっ、あ、まあ……、パーティーの事を考えると緊張してしまいまして……」
誕生パーティー前日。
王女の部屋に集まる僕等三人。
王女側の準備は出来たとミレイは言っていた。
こちらも大方の準備は済んでいるのだ。
だが、ただ一点、そして最大の不安が残っている。
それは余興。
実は、ここに来る前に城内のメイドさんから僕宛てに届け物が来ていると伝えられ、確認しに行った。
◇ ◇ ◇
両手で抱えるにはやや大きいと感じる程の大きな箱が届いていた。
送り主は余興を依頼した業者だ。
嫌な予感しかしないまま、恐る恐る箱を開けてみた。
そこには掌をややはみ出る程の球状の物体が5つと石版が1つ、あと書状が入っていた。
球状の物体には見覚えがある。確か、魔導花火だ。
通常の花火は、打ち上げから演出まで”火”と”火薬”が用いられる。
対して魔導花火は、それらを”魔力”と”魔力結晶”によって行う。
”魔力結晶”とは、単なる”魔力”を特殊な効果に変換させる際に媒介として用いられるものである。
余談だが、先日の勇者捕獲の際にも使用している。
僕が小さな結晶を投げ、それを爆発物として使用したのだ。
そして、その二つの大きく違う点は、通常の花火は個体サイズと内部の細工により範囲や演出が固定されてしまうが、魔導花火は術者の魔力と技術次第で、ある程度範囲や演出を変える事が出来る。
だが、生身での魔導花火の扱いは簡単ではない。
一般的には不可能とも言える。
魔力・魔術共に高度なレベルが要求されるからだ。
それを比較的扱い易くする為の道具が同梱の石版。魔導花火の制御装置。
魔力増幅と演出操作を行う道具だ。
そして、もう1つ同梱してあった書状に目を通す。
――パーン様、誠に申し訳ございません。
わが社の総力を上げ、王女アルレ様の誕生パーティーを盛り上げるべく、依頼には真摯に取り掛からせて頂きました。
ですが、満足していただけるような企画を立案する事が出来ず、断腸の思いにて依頼をお断りさせていただく事に決定しました。
社員共々、誠に遺憾であります。
つきましては、頂いた手形はお返しさせていただきます。
拙い物ですが、こちらで用意させていただいた魔導花火は謙譲させていただきます。
石板を起動させて頂ければ使い方も表示させられるようにしてあります。
言い訳がましく申し訳ありませんが、社員一同、誠心誠意、全力で取り掛からせていただきました。
此度の責任は、身に余る依頼であった事を判断出来ず、請けてしまった私にあります。
私ごときの謝罪と、廃業程度で済む問題では無いとは思っておりますが、どうか社員達はお許し下さい。
この度は、誠に、誠に申し訳ございませんでした。
ショート興業 代表ヌル・ショート――
手紙を読み終えた僕は茫然としていた。
要するに彼等は逃げたのだ。
多少は憤りの感情もあるが、それ以上に遺憾である。
僕自身、事の重大さを理解していなかったとはいえ、彼等に重責を押し付けていた事に罪悪感が生まれたのだ。
何とか彼等にお詫びし、復活して貰いたいが、取敢えず明日の誕生パーティーを切り抜けることが先決だ。
それが出来なければ、僕の立場すら危うい。
さて、どうするか……。
彼等の用意してくれた魔導花火は1つだけでも、かなり高価だと思う。
良質の魔力結晶がしっかり詰まっているかは、触れればある程度分かるのだ。
それにより依頼に対し、真摯に向き合っていた事は伺えた。
何とか活かしてあげたい。
そうなれば、出来る事は1つか。
◇ ◇ ◇
「すみません、過去の催事の余興ってどんなものがあったのですか?出来れば御兄弟の成人パーティーの時の事を教えていただきたいのですが」
僕は今更ながら王女に尋ねた。
もっと早い段階で知っておくべきだったと思うが、一応は聞いておこう。
「んん?なんじゃ今更?そうじゃのう……リオン兄様の時には軍の全兵を動かし、各々に魔導照明を持たせ、城から見える城下町全体に動く絵を映し出しておった。壮観であったぞ。ベゼル兄様の時には、炎竜を捕まえてきて、親衛隊に戦わせる討伐ショーじゃった。あれには湧いたな。イリス姉様の時には、賭け事じゃな。数百人からなる男共に長距離障害レースをさせ、各貴族の立場が逆転する程の多額の賭けを強制的に行わせていたのう。あの一件にて大きく出世した者と、失墜した者が出た程じゃ。実に理不尽じゃった。イリス姉様らしい悪趣味な余興じゃったわ」
「……へ、へぇ」
僕は聞いたことを後悔した。
先ずは王女の話に出てきた人物の説明をしておこう。
リオン様は説明不要か。
ベゼル様は、第二王子。何を考えているか良く分からない風来坊的な雰囲気の方だ。破天荒だが、独特な魅力で一部からの指示は厚い。
イリス様は、第一王女。妖艶な容姿により、多数の男性従者(奴隷)を従えている。王女とは仲が悪い様子だ。
王位継承順位で行くと、リオン様、ベゼル様.
準王位継承権で行くと、イリス様、アルレ様の順になる。
年齢も、上記の順番通りで22歳、20歳、18歳、14……と、明日で15歳か……である。
近年の王族史で見ると、この数の子女は最少数。
誰にも王位継承または準王位継承権行使の機会があるとも言える。
とはいえ実状、リオン様の最有力は揺るがない。
ひょっとしたらベゼル様?というのが世間での見方ではあるが、その序列は簡単には覆らないだろう。
話を戻し、僕の不安はより大きくなった。
一番まともそうな余興であるリオン様の例を見ても”軍の全兵を動かす”という恐ろしい規模だ。
他二人も、おおよそ民間のレベルでまかなえるものではない。
認識の甘さを再認識した。
「で、お主は何を用意したのじゃ?」
「いっ、いえ。それは、まだ秘密です……」
苦しいながに答えた。僕自身どれほどの事が出来るか分からない。
「もったいぶるのう。じゃが、期待しておるぞ」
楽しそうに笑みを浮かべる王女に愛想笑いを返した。
本来は王女を楽しませるものではなく、来賓を楽しませる為のものだぞ?と、突っ込みたくなったが、止めておいた。
「あっ、そうだ、明日の余興の件で準備する事がありました。今日はこれで失礼してよろしいでしょうか?」
僕は焦った様子で王女に訴える。
「うむ、そういう事ならば良いぞ。精進せい」
「はい」
僕は王女の部屋を逃げるように後にした。
◇ ◇ ◇
城下町からもかなり離れた荒野に来た。
目的は1つ。
実験だ。
書物庫で調べ、魔導花火の事を出来る限り詳しく調べた。
石版の使い方については書面にあった通り、本体に取扱説明の術印項目があった為、そこを触れたら説明文が浮かび上がった。
読んだ上で、ぶっつけ本番ではなく、効果の検証をしておきたいと考えたのだ。
先ずは、通常通りの使い方。
石版を使用し、小規模の打ち上げを行った。
これは問題なく実行出来た。
騒ぎにならぬよう、規模をかなり抑えた。
とりあえず発動の要領は把握出来た。
魔導花火は使いきりの道具、残りは4発。
本番を考えるとテストに使えるのは1〜2発が限度だろう。
次は石版を使用せず、自身の魔力と技術での発動を試みる事にした。
構造上は、魔力のみでの発動が可能な物の筈なのだ。
だが、異能型魔人でも生身で花火効果を発動出来るだけの魔力を持っている者は、ほん僅かで一握り。
加えて、ある程度の魔術知識も必要。
その為、魔導花火は自力での発動は困難とされている。
暴発の危険性も含め、ある規模からは無免許での使用が禁止されている程だ。
例え免許があったとしても、安全装置の使用は義務付けられている。
が、当然僕は免許など持ってはいない。そこは誤魔化すつもりでいる。
そして、安全装置を付随されているのは石板。
ただ、この石板は一般的には安全装置として用いられる事よりも、効果制御・魔力増幅に使われている。
だが、それは僕にとって足枷でしかない。
ここまで来たら制限など糞食らえだ。
前にも言ったが、僕は魔力には多少の自信がある。
色々とあって、今は公で力を使う事はしないが、術はさておき魔力ならば国内でも上位、つまり世界でも上位の存在であるのでは?と勝手に自負している……あくまで自負だ。
だからこそ、石版の制限など受けず全魔力を注ぎ込む事で、超特大花火を打ち上げられるのではないか?と、考えている。
流石にそれを、今ここでテストする事は憚られるが、手応えだけでも掴んでおきたいというのが目的だ。
今更、無免許などという些細な違法を怖がってはいられない。
地面に置いた魔導花火から距離を取り、魔術を用いてにて魔導花火を上空へ上げる。
感覚でしかないが、小規模爆発でも視認可能だと思われるギリギリの所まで高度を上げ、起爆用の魔力を極僅か、ほんの少しだけ、優しく注ぎ込んだ。
軽く乾いた炸裂音と共に赤い火花が炸裂した。
手応えはあった。演出もイメージした通りだ。
うん。この感じならいける。
そう思い込もうと、小さくガッツポーズし数回一人で頷いた。
自身に言い聞かせるように……。
そうでもしないと、怖くて明日を迎える事が出来なかったのだ。
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