第22話
いつもの様に王女の部屋にいる王女、僕、ミレイ。
だが、今日はいつもと違い、僕とミレイは忙しなく動き回っていた。
「アルレ様、挨拶の文言はこれで」
僕は王女に紙を渡す。
「うむ」
寝巻き姿のままベッドで寝転ぶ王女は、気怠そうに紙を受け取り、適当に目を通す。
「アルレ様。お召し物の候補を用意しました。先ずは御試着し、気に入った物をお選び下さい」
ミレイは室内のドレッサーを開け、用意された大量の衣装を見せる。
「う、うむ」
ミレイの方を見て、引き気味に王女は頷く。
「アルレ様、来賓一覧と席の配置はこのようになっています」
僕は再び紙を渡す。
「あー、もう、うるさいわっ!バタバタするでない!」
王女はベッドから飛び起き癇癪を起こす。
「うるさいって、明後日ですよ誕生パーティー。焦りますよ!!主役はアルレ様なんでからっ!」
僕は王女に向かって強い口調で言う。
取り敢えず、僕等の関係性は勇者捕獲作戦以前に戻った。
喜ばしい事だが、今はそれどころではない。
王女の15歳の誕生パーティーが明後日に迫っているのだ。
勇者捕獲作戦とその後の余韻のせいで、少し気を抜いて過ごしてしまった為、今になってそのしわ寄せが来ている。
それに関しては僕にも反省すべき点はあるが、流石に少しは王女自身で準備を進めているかと思っていたのだ。
――甘かった。
「適当で良いじゃろう?去年もそうであったし」
「適当って……。去年は就任直後で呆けておりましたが、今年のは全然意味合いが違うでしょう?」
去年の誕生パーティーも僕は経験しているが、前述の通り就任直後で何も分からぬまま出席していた。
それでも何とかなったのは、去年は基本的には王直属の部下達が準備をしてくれたからだ。
だが今年は、王女自身が企画し直属の従者、つまり僕とミレイが取り仕切る事になっている。
その理由として、この国の女性は15歳で成人とみなされる。
そして、成人となった王女の裁量を計る最初のイベントが、この誕生パーティーなのだ。
だからこそその前年に、正式な従者が選出されるのだ。
多くの上級貴族を来賓として呼び、その貴族達を盛大にもてなす事で器の大きさと格の違いを見せつけるという、何ともブルジョワジーなイベント。
多くの従者を持つ他の王子・王女ならいざ知らず、人数も少なく、経験も無い、加えて上流階級の嗜好など毛ほども分からない、完全な素人に任せるのは流石に無茶振りだ。
王、又は他の兄弟の誕生パーティーに参加出来ていたなら、少しは参考になったのだが、従者ごときは参加を許されなかった為、想像すらつかない。
過去の文献と、王の従者に聞いた情報からの推測で動いている状態。
そうは言っても、王族に恥をかかせる訳にもいかず、僕は苦悩していた。
一応、大まかな事前準備は済ませた筈だ。
関係各所へ招待状の送付、会場レイアウトの指示、料理の指示、進行の計画書等は様々な所に伺いを立て準備をした。
当然の事ながら、僕等だけでは手が回らない為、城内の使用人達への救援要請もした。
だが、如何せん不慣れな為、様々な事が不安になり不備も見付かったりした。
どうにかこうにか纏まったが、まだあと一日余裕があると油断する事は出来ない。
流石のミレイにも焦りの色は見える。
少し話は逸れるが、最近はミレイの感情が少しだけ分かるようになってきた。
いや、ミレイ自身が伝わり易くなるよう努力しているのかも知れない。
僕の変化か?彼女の変化か?そのどちらなのかは、普段接していると判断しかねるが、どちらにしても悪い事では無いだろう。
話を戻して、このパーティーは単なる誕生祭ではない。
前述の通り成人の儀というのもあるが、更には王女の将来の婿選び……正確には王女からではなく、王女争奪戦が開始される。
成人を期に、領主や上級貴族の息子達がこぞって王女にアプローチしてくる。
それは暗黙の了解となっていて、咎める者は居ない。
その思惑は様々だが、王女の一生を決める重要な局面の一つである事は間違い無い。
そんな場面に、眼前に居るような、だらしなく寝巻き姿で寝癖を立てている、みっともない王女を立たせるわけにはいかない。
僕等の責任問題となるかもしれない。そうなれば……
まぁ、そこは外面の良い王女ならば何とかするかとも思ってはいるが……。
それでも王女が、あまりにも非協力的過ぎて困っているのも確かだ。
「大体、何故取り繕わなくてはならんのだ?いつもの様に適当なドレスを着て、適当に食事をし、笑っておれば良いのではないか?」
「ええ、僕だってそう思いますよ。別段親しくも無い、殆ど会った事も無いような人達を呼んで、食事まで振舞って、もてなして、そんな誕生日会は理解できませんね!」
苦笑いしながら皮肉を混ぜて言った。
「それが普通では無いのか?お主等の誕生パーティーとはどういうものなのじゃ?」
王女は不思議そうに尋ねてくる。
「私は自分の誕生日すら知りません」
ミレイがサラッと悲しい事を言う。
ならば、年齢はどう換算しているのだろうか?などとつまらぬ推測もしてしまった。
場は少し沈黙する。
「そっ、そうじゃ、セルムはどうだったのじゃ?」
「あっ、はい。僕はですね……。えっと、幼い頃は……両親と三人で……。僕の好きな料理を作って貰って、ケーキを用意してくれて……あと、プレゼントも貰いましたね。そんな感じの他愛もないものですよ」
「家族だけか?客は呼ばんのか?」
「ん……中には友人を呼んだりというのもありますが……。生憎僕にはそういう経験はありません」
「なんだ、似たようなものではないか」
「規模が違います!普通は数人程度。アルレ様の場合は来賓が百倍近いですよ!」
「ふーむ、良く分からんのう。して、今もそんな感じの誕生パーティーをしておるのか?」
「……いえ、少し前に不幸がありまして……両親は他界しております」
「……んぬ……それは。すまんかったのう」
王女は気まずそうな表情を浮かべる。
気にしていない訳では無いが、王女が気にする事では無いとも思っている。
事故に巻き込まれ、運悪く両親共に他界した。
真実が分らぬ以上、それを信じるしか無いのだ。
「いえ、仕方の無かった事だと聞いておりますので……」
再び、場は沈黙する。
「ふむ、祝ってくれる者達がいるというだけでも贅沢なのかも知れんな。……仕方ない、面倒だが妾も協力するか」
渋々といった感じではあるが、王女は協力する姿勢を見せた。
「そうですよ、羨ましい限りです」
ここぞとばかりに王女を乗せに掛かる。
「では、どうぞお選び下さい。御試着もある為。セルム様は席を外していただいてよろしいですか?」
ミレイが王女の手を引き、案内を始める。
「うっ……うむ」
「じゃあ、僕は外に出るよ」
場所を変えて作業できるよう、資料を持って僕は王女の部屋を出た。
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