第19話
ウォレンが要請した他の兵士も合流し、勇者達は全員捕獲された。
手足を拘束し物扱いで勇者達を領主邸へ連行する。
捉えた勇者は男性四人・女性二人の合計六人。
いずれも十代後半〜二十代前半といった容姿だ。
あまりにあっけない結末に拍子抜けした事は確かだったが、被害の拡大が抑えられて一安心。
しかしながら、先のいざこざの後、王女とは一切会話をしていない。
それというのも、王女がこの場に居るのは流石に問題だというウォレンの進言を受け、早急で内密に領主邸へ送還した為、話す機会が無かったのだ。
◇ ◇ ◇
領主邸の豪華な一室。
一際豪華な椅子に座るリオン様の前に、特殊な手錠を掛けられ身動きの出来なくなった勇者達六人が連行されてきた。
ウォレン、ミレイ、僕とその他三名の兵士がリオン様の前で跪いていた。
勇者捕獲に直接関与したとされる者達。
リオン様の横には王女が座っていた。
「良くやったぞウォレン」
「有難き御言葉。ただ、今回の件に関しましては、アルレ様の従者二人の功績が大きいかと思います」
ウォレンは頭を垂れたまま訴える。
「アルレの従者二人か。一応は大義であったと褒めておく。だが、あくまでアルレの手柄であり、お主等の手柄では無い。心しておけ」
あからさまに面白く無さそうな態度を取るリオン様。
素直に喜べない御言葉だ。
まぁ、僕としてはどうでもいい事なので、心底どうでもいい。
リオン様は非常に良く出来た人物だと聞いていた。
頭が切れ、武術に長け、品格もあり、権力をひけらかす事も無い。
兵や民にも分け隔てなく接する、王に相応しい人物だ……と。
だが、眼前に居る彼にそこまでの大物感は感じられない。単なる、私感だが。
そこまでの方ならば、僕に対する悪感情が何かしらあったとしても、そこは上手く取り繕うくらいはしても良いと思う。
それだけでなく、何と言うか、絶妙に微妙なのだ。
「「有難うございます」」
そう思いながらも僕とミレイは深々と頭を下げる。
「兵の使い方もさることながら策まで練れるとは、流石はアルレだ」
リオン様は王女の方を向き、優しく微笑みかけ、頭を撫でようとする。
が、王女は自然な所作でそれをかわす。
やや残念そうな表情をするリオン様。
王女の行動も理解できる。
ふむ、ここも微妙に感じる部分の一つ。
率直に言えば気持ち悪い、と言えるほど王女に甘い。
「いえ、今回の件。私は何もしておりません」
王女は静かに答えた。
「謙遜するでない。本当に大したものだ」
めげずにリオン様は緩んだ笑みを王女に向ける。
「本当に私は……」
王女は暗い表情を浮かべながら俯く。
やはり様子がおかしい。
普段の王女ならばそつなく返せただろうに、どこか戸惑いがある。
先の一件が影響しているのだろうか?
「糞魔人共が、俺達をどうするつもりだ」
勇者の中の一人の青年が拘束されながらも、リオン様を睨んで言った。
「止めろ、ミハエル!」
もう一人の青年が止めに入る。
「黙れ、下郎が!」
同行していた兵の一人が、ミハエルと呼ばれる青年の頭を床に押し付ける。
「はやるな下郎共。本来ならば今すぐに処刑したいのだ。……だが、一度は議会を通さねばならん。面倒な事だ」
リオン様は厳しく冷たい目線を勇者達に向ける。
「……すみません、御兄様。こんな場面ですが、私から勇者達に質問をさせていただいてもよろしいですか?」
「む?構わぬが、情など出すなよ?アルレは優しいからな」
リオン様の表情が再び緩む。
あぁ、多分、本格的に駄目な感じの人なんだと確信した。シスコンって奴だ。
まぁ、王女も正体は我が儘な干物だし、王族ってこんな人達ばかりなのかも知れないと勝手に納得してしまった。
「では……。貴方方に質問させていただきます。何故、魔人を襲うのですか?」
王女は普段の姿から想像も出来ぬほど凛とした態度で勇者達に問い掛けた。
場が静まる。
人族と魔族が仮初の和平を築いている事は、この場に居る誰しもが知っている。
だからこそ、魔人の独断では裁ききれないのだ。
とはいえ、人族同士のいざこざよりも罪が重くなるのは当然の事。
よもや勇者連中もそれを知らないという事は無いだろう。
ならば何故、重い罰を覚悟してまで勇者達は魔人を襲うのか?
世相を知らぬ王女ならば気になるのかもしれない。
僕もそんな事を教える必要は無いと考えていた。
「けっ、何を偉そうに。お前等のせいで人族は苦しんでんだ」
頭を押さえつけられたままミハエルが答えた。
「言葉を慎め!」
兵は頭を押さえているを強める。
表情を歪めるミハエル。
その言葉を聞き王女は怪訝そうな表情を浮かべた。
「どういう事ですか?」
王女は不思議そうにミハエルに尋ねた。
兵はミハエルの頭を押さえる力を少し緩めた。
口を動かせるようになったミハエル。
「どうもこうもねぇ。お前等が資源や土地を独占してるせいで、俺達は苦しんでんだ!」
吐き捨てるように訴えるミハエル。
「私達が独占?」
「そうだよ!お前等がこんな土地に国なんか築いてるせいで俺等は職も住む場所も無ぇ。お前等さえ居なければ……」
悔しそうに答えるミハエル。
完全な逆恨み。
そもそも大昔、人族との最初の大きな戦争の後、人口に対して平等に国土を配分した筈だ。
長い年月が過ぎている為、人口の推移はあると思うが、そこまで偏ったものでは無いと思う。
事実、人族の国土は魔人の十倍以上もある。
それ以上の事は、人族内の問題でしかない。
反抗的なミハエルの口調に兵が身構えたが、王女はそれを制止した。
「私達が居なかったらどうだというのですか?」
「お前等さえ居なければ、俺等が貧困に苦しむ事も無かった。っ……妹だって死ぬ事は無かったんだ!」
ミハエルは王女を睨み言い放つ。
王女の表情はやや翳る。
「すみません、アルレ様。私も少し発言してもよろしいですか?」
論破されていしまいそうな王女を見かね、僕は挙手して尋ねた。
「従者風情は黙っていろ」
何故かリオン様が答える。
いちいち僕に突っかかってくるなぁ。この人は。
「御兄様、ここはセルムさんの功績と私の顔を立て、許可を頂いてもよろしいですか?」
王女は意志の篭った瞳でリオン様を見つめる。
「んん。お前が言うのならば……」
渋々といった様子で了承するリオン様。
「有難うございます。セルムさん、どうぞ」
王女は僕に発言を促す。
僕は礼をした後に立ち上がる。
「有難うございます。では、ミハエルさんと言いましたか?こんな場面で聞くのもおかしいかもしれませんが、貴方が不満に思っている事は人族側で解決できる問題ではなかったのですか?」
「出来ねぇから、こうしてんだ!」
「そうですか……。ただ、人口で換算した場合、国民一人あたりに割り当てられる土地は私達も貴方方と大差はありません。後は、人族同士の裁量でどうにでもなる事では?それに資源の問題も同様です、採取できる資源に偏りはあるかも知れませんが、それはこちらも同じ事で、互いに採取される資源は貿易上のルールを逸脱しない形で問題無く取引されています。独占とは程遠いかと思いますが?」
「んな……。しっ知らねぇよ!そんな事は!」
「良く知りもしないのに、魔人を目の敵にしているのですか?何故?」
「うるせぇっ、皆が言ってんだ国のお偉いさんも、魔人のせいだって!」
「責任転嫁の体の良い言い訳だとは思いませんか?それに、貴方の国は全員が貧困なのですか?」
「そっ、それは……」
「先程、妹さんの死についても触れておられ、大変気の毒だと思いますが、それは魔人に殺されたのですか?」
「……いや……。けど、原因は……」
言葉に詰まるミハエル。
その姿を見て、論破したという優越感ではなく、怒りが込み上げてきた。
「ふざけるなっ……!世相を知らず考えもしない、思想も浅はかで信念も無い。思い込みで暴れた挙句に、捕まれば被害者面でお涙頂戴とは。情け無い」
「っんだと」
「……お前は自分の手で殺してるんだ。お前等が何と呼んだとしても人を。その者達にも家族が居ただろう。自分のやった事を良く考えろ」
僕はミハエルを侮蔑の目で見下した後、振り返る。
個人的な問題なのだが、非常に後味が悪い。
こんな事は僕が言えたものでは無い。
ミハエルは絶句し、他の勇者も黙ったまま。
場に沈黙が訪れる。
「アルレ様、有難うございました。私からは以上です」
王女の前で跪き頭を下げた。
「え……っと、はい」
普段と様子の違う僕を見て王女は戸惑いながら答え「私からは以上です」と、リオン様に告げた。
「そうか、後は王都に還ってから聞くとしよう。今日は解散だ。勇者共は牢に戻しておけ」
リオン様がそう告げると、僕等含めその場にいた魔人達は頭を下げた。
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