第14話


 呼び出されたガルブ領主邸に到着した。

 守衛に事情を説明し、確認が取れた後、邸内に案内された。


 王城とはほど遠いが、大きく立派な建物だ。

 中で働く使用人達も多い。


 王女の居る部屋に案内され、中に入ると、王女とミレイ、リオン様、そして、もう一人見覚えがある緑髪の暑苦しそうな男性が居た。

 緑のカツラにやや抵抗があったのだが、彼が起因する。


 「セルムさん。お疲れの所お呼び立てして申し訳ありません」


 王女は気持ちの悪い口調と態度で僕に近付き、頭を下げている。


 「そんな、私ごときに頭を下げるなどお止め下さい。アルレ様がご無事で何よりです。移動途中もアルレ様の事が心配で、寝付く事すら出来ませんでした」


 実際は野営で熟睡していた。慣れているので。

 仕返しだと言わんばかりに、わざとらしい態度で跪く。

 一瞬、気持ち悪そうに表情を歪めた王女だったが、すぐに立て直す。


 「そうですか……ご心配お掛けして申し訳ありません。御兄様やミレイ、更には御兄様の親衛隊員であり此度の指揮を執るファーネル様が同行して下さった為、不安なくここまで来れました」


 王女は跪く僕の肩に手を置き、語りかけてきた。

 改めて”ファーネル”の名を聞き、王女との三文芝居が急激に恥ずかしくなってきた。

 だが、ここで素に戻るわけにはいかない。


 「何とお礼を申し上げて良いものか……。私のような下賎の者が従者になど就いたばかりに、リオン様やウ、ファーネル様の御手を煩わせてしまうとはっ……」

 「良いのです。貴方を傍に置いているのは私なのですから」


 自分で言いながら気持ち悪い。なんだこのやりとりは!?

 更に気持ち悪いのは、悲しそうな声色で、僕の頭を撫でる王女だ。

 どんな表情か気になり、目線だけで何とか表情を伺うと、それはそれは気色の悪い表情をしていた。

 言動・態度と表情が結びつかない。


 我慢の限界を感じ、僕は顔を上げる。


 「アルレ様の御慈悲に感謝いたします。同時に生涯の忠誠を誓います」

 「私も貴方の忠義に救われています」


 王女は取り繕った笑顔で言った。


 「ふん」と、鼻を鳴らし、不機嫌そうな態度のリオン様と、無表情のミレイ、俯き肩を震わせているファーネル……様?



 三文芝居の後、王女が僕等三人だけで話をしたいと申し出た為、リオン様とファーネルは部屋を出た。



  ◇  ◇  ◇



 「おい、セルム!」

 「何でしょうか?アルレ様?」

 「もの凄く気持ち悪かった!!」


 不機嫌そうな王女。


 「とてつもなく同感です、アルレ様」


 僕は皮肉めいた笑みで返した。


 「私もそう感じました」


 珍しくミレイも口を挟む。

 ミレイが言うのならばよほどだったのだろう。


 「だいたい、なんであんな面子が揃っている時に呼び出したんですかっ!?」

 「知らんわ!お主が勝手にあの場に来たのじゃ!空気を読め」

 「呼んだのはアルレ様じゃないですか!?教えてくれなきゃ分かりませんよ」

 「あーあー、煩いわ。じゃが、今はそんな事はどうでもよい」


 王女は耳を塞ぎ、頭を振る。


 「……分かりましたよ。で、呼び出した理由は?」

 「ふむ。セルムの勇者捕獲計画の説明じゃ」

 「本気だったんですか?」

 「当たり前じゃ!では、説明するぞ……」


 王女は計画の詳細を語り始めた――

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