第13話


 さぁ、楽しい楽しい現地取材の始まりだ。


 僕はむさくるしい雑兵に混ざり、馬車の荷台に乗っている。

 さながら売られていく食用動物の心境だ。


 軍の雑兵という事もあり、すし詰め状態。

 揺れる度、両隣の兵士の鎧が肌に当たり痛い。


 「おい、兄ちゃん。そんな格好で戦えんのかよ」


 隣に座っていた、小振りだががっちりとした体格の狸面のおっさんが話し掛けてきた。

 獣人系か。

 雑兵には獣人系魔人が多い。

 体力的に優れているというのも理由ではあるが、悲しいかな僅かの差別が存在するのも確か。

 異能系魔人に対し、獣人系魔人は下位に見られがちなのだ。


 「御心配なく。僕は戦闘要員では無いので」


 僕は愛想笑いしながら応えた。


 「あぁ、そうか。そんな感じだな。まぁ、戦闘魔術班ならこんなとこにいねぇか。諜報班か何かか?」


 僕の髪の色を見て異能系と判断し、おっさんは尋ねてきた。

 戦闘の場に出てこられるような力を持つ魔術師は、位が高い。

 魔術を使える異能系は数多居るが、戦闘に使える程の力を持つものはごく一部。その為、軍でも重宝される。

 最も上位に挙げられるのが医療系、次いで攻撃系など種類が細分化する為、説明は省く。

 その下に庶務系があるのだが、その中に諜報班が存在する。


 「えぇ、まぁ。そんな感じです」


 僕は恥ずかしそうに縮こまりながら頷いた。

 別に恥ずかしかった訳ではない、不信感を持たれたくなかったのだ。


 実は今回、目立つ事を危惧してカツラを被った。

 自身の素性を隠したかった事に加え、ほぼ人族の外見で勇者討伐には出向き辛かったのだ。

 その為、現在は緑色の髪のカツラを着けている。


 実はこの行為、バレれば重罪。

 素性を偽るような変装は法的に禁止とされている。

 なぜなら、この方法は人族のスパイが使う手口だからだ。


 因みに、これは王女の発案。

 リオン様にも説明済みとの事で、今回は特別に許可されている……と、言っていた。

 やや目線が泳いでいたのが不安であるが……信じるしかない。


 そして、王女はこの場に居ない。

 当然といえば当然だが、王族は特別待遇の竜車にて安全で快適に移動中だ。特別中の特別クラス。

 ミレイは王女と一緒にそっちで移動している。

 僕だけ雑兵と一緒に馬車移動というところに、リオン様の悪意を感じざる負えない。


 だが、むしろ僕にとっては好都合。

 軍の上層部に近い者ほど、僕の素性を知っている可能性は高い。

 そうなると流石にカツラでは誤魔化しきれない。

 そういった者達と顔を合わせる機会が減るのは有り難い。


 「しかし、いくらなんでもやりすぎだよな?たかだか5人程度の人族相手にこの人数、しかも王子の親衛隊まで出すとはよ」

 「えっ?5人!!?」

 「んだよ。そんなことも知らねぇのか?諜報班のクセに……新人か?ったく、馬鹿馬鹿しいったりゃありゃしねぇよ。その数の人族相手にこの大編成」

 「……ええ、そう思います」


 それは同意せざる負えない。

 今回派遣されたのは、リオン様の親衛隊20に加え、中央軍500。そこに僕等3人が加わった総勢523人。

 ここまでする以上、どんな相手かと思ったが、5人ほどとは……。

 彼でなくとも馬鹿馬鹿しいと思うだろう。


 事情を知っている僕はいたたまれなくなった……。



  ◇  ◇  ◇



 出発から二日、ガルブの主都オエステに着いた。

 間に一度野営を剪んだとはいえ、基本は身動きが取れない上に、揺れの激しい馬車での移動だった為、体中が痛い。


 軍の拠点となる場所に着き、兵士達は拠点の設営を始める。

 僕も周囲に合わせるように設営を手伝っていると通信魔道具が鳴動する。


 「えっと、はい。セルムです」

 『もう着いたのじゃろう?なぜ、顔を出さん!』

 「無茶言わないで下さいよ。今着いたばかりです。それに、こちらにもやる事が……」

 『それは、妾の命令よりも大事な事か?』


 魔道具越しだが伝わる威圧感。

 脅迫だ。


 「……分かりましたよ、どこに行けば良いんですか?」

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