第5話


 「今日はパラネル先生の授業の日ですよ?準備は出来てますか?」

 「んー。気が進まんのぉ」


 机に突っ伏した姿勢でダラける王女を、僕は呆れ顔で見る。

 今日はミレイが休みだという事で、僕が一人で王女の面倒を見ている。


 「そんな事言わないで下さい。凄い方なんですよ」

 「分かっておるわ。お主よりも付き合いは長いからな」

 「それに小説を書くなら、勉強は必要でしょう」

 「細かい部分はお主が考え書けば良い。妾はただ話の流れを考えれば良いのじゃ」

 「結局、投げっ放しですか!本来ならば王女自身で……」


 そんな会話をしていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 ドアを開けると、会話に出ていたパラネル先生がメイドさんに案内され、部屋の前に立っていた。


 「お待ちしておりました。パラネル様」


 僕が会釈をすると、彼女は鼻を鳴らし、軽く侮蔑するような視線を向け、返事をする事も無く部屋の中に入る。

 いつも通りだが、酷い応対だ。


 王族専門教師という事で、僕より地位は上ではあるが、そういった態度は教育者としてどうなのだろう……?

 むしろ、それこそが王族のあるべき姿だという事なのか?

 パラネル先生の詳しい年齢は知らないが、外見から察するに40代半ば。

 目つきのキツイ、狐面のおばさん。獣人系か?

 おそらく生涯独身だろうと、心の中で考えていた。

 些細なストレス発散だ。

 

 魔人の平均的な寿命は、異能系魔人が70〜80歳くらい、一応、人族もほぼ同じ。

 獣人系魔人は50〜60歳くらい、他に比べるとやや短命。

 エルフ族は150〜200歳くらいとかなりの長寿。


 あくまで平均値であり、寿命や見た目には個人差が大きく出る。

 つまり、エルフ族以外は概ね変わりなく、獣人系だと思われるパラネル先生は、そこそこ高齢者である。

 あくまで全て推測だが。

 

 「ご機嫌そうで何よりです。アルレ様」


 僕に向けた態度とは打って替わり、表情筋を不自然に弛緩させた笑みを浮かべ、手を擦りながら王女に話しかけるパラネル先生。

 毎度の事とはいえ不愉快だ。


 「私もパラネル様にご鞭撻いただける日を心待ちにしておりました」


 王女も、先程までの言葉や態度が嘘の様に上品かつ爽やかに微笑みを返す。

 相変わらず、圧巻の変貌振り。


 そう、これが王女の外面だ。

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