142
君は教団直属のお抱え戦士となった。
住居として
だからといって暇になる事もない。
――そして一年後――
君が癒しの木の水を持って行くと、ナターシャは控室でそれを飲み、一息ついた。
午後の治療の前に、己の体力を回復させるために。
ナターシャは教団始まって以来の神童だった。
生まれつき治療系の魔法の才能がズバ抜けており、潜在している魔力も人並み外れていた。神官として人々の癒しを始めたのは十の誕生日を迎える前であり、一年も経たぬうちにどの神官よりも高度な魔術を修めたという。治療を生業とする教団にとって、まさに神の子であった。
だが体の方は、むしろ並より虚弱だった。
幼い頃は強い日差しにあたるだけで倒れた事もあったという。
それが魔力の強さゆえに最も多くの患者を受け持ち、周りの大人より長く業務に当たり続けていた。そして疲労は己の回復術でこっそり補っていたというのだ。
もちろん無茶である。体に毒なのは間違いない。
教団の者がそれに気づいたのは君が神聖都市サクレッドを訪れる少し前。
神童の無理が明るみに出て、癒しの木が年々弱っている最中だったので、下手をすれば教団の存亡にかかわる状況だった。
しかし君達の活躍で癒しの木は復活。それはナターシャの負担も大きく軽減していた。
なのにナターシャは肩を落とす。
「木が元気になったのに、私の調子はあまり良くない‥‥」
木が蘇ってからというもの、彼女自身が毎日水の世話になっているのだ。
そこへスターアローが顔を出した。君の乗馬ではあるが人語を解し知能も人並みになるので、彼は神殿の中を自由に歩く許可を得ているのだ。
「ま、しょうがねえだろ。今までの無理が祟っているんだろうさ。癒しの木が元気になったならそれに任せていりゃいいぜ」
スターアローに言われ、かえってナターシャはしょげてしまった。
「私は神の子で教団のシンボルなのに‥‥」
「だから元気でいてくれって事さ」
労わるように言うと、スターアローは鼻づらでナターシャを愛撫する。ナターシャは小さく微笑んで、スターアローの頭を抱いた。
「今日のお仕事もがんばってね」
能力を鼻にかけてお高くとまったガキ‥‥などと言ってナターシャを嫌っていたスターアローだが、彼女が周囲の期待に応えるため無理をしているのを知ると、あっさり態度を変えた。
ナターシャの方もスターアローに打ち解け、いつのまにやらすっかり仲良しである。
――神殿前――
君は神殿を出てスターアローに跨った。
全く、世の中にこれほど病人やケガ人が多いとは。彼らと共に働くようになって、君は治療や医療の現場がどれほど大変か知った。
今では彼らに力を貸せる事が誇りであり生き甲斐となっている。
スターアローは空へ飛んだ。
街の裏にある墓地がここからも見える。患者を何人助けようと、埋葬される者は毎日いる。今日も誰かの葬儀が行われていた。
「ケガや病気を治せるといっても弱り過ぎていたらやっぱり助からないし、老いで逝っちまうのはどうにもならないな」
君はそれに頷きつつも言った。
皆を助ける事が不可能だとしても、助けられる者が多いに越した事はないではないか‥‥と。
「そりゃそうだ。よし、今日もいくか」
スターアローが力強く羽ばたく。
君達の下で神殿が小さくなる。その中から伸びる水路と、そこに流れる癒しの木の水も。
君達は護衛を待つ送迎馬車の元へと飛ぶのだった。
【fin】
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