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――その後――


「地位や身分を貰えたとはいえ、こりゃ勤め人じゃねぇか」

 帰り道で愚痴るスターアロー。君は馬上で、夕日のさす領地への道を下に眺めながら空の上で苦笑した。

 君達は騎士団の訓練から家へ帰る途中なのだ。



 とり立てた余所者にくれてやれる村など、正直、君はさほど期待していなかった。

 冒険の拠点になる場所があれば便利かもしれない‥‥ぐらいの考えだったし、居心地の悪い所なら適当に売り飛ばしてしまえばいいとさえ思っていた。

 しかし与えられたのは都市グラドのすぐ側にある、領内でも富裕な町だった。スターアローに飛んでもらえば王城との日帰りも簡単な距離だ。

 そこを治める地主となった君には、騎士団の副隊長の地位まで与えられた。


 どうもあの大臣は、魔境・雷王樹海らいおうじゅかいを潜り抜けて秘宝を探し出してくるような猛者なら、抱え込んで重用しなければ損‥‥と計算したようだ。

 彼が一番悩んでいた次期王の後継問題も当分は心配なさそうだ。依然として双子の王子は対立しているが、王は病から回復してこちら、何歳も若返ったかのように元気になったので。

 そんな王と連日相談しているようなので、じきにはっきりと白黒つくだろう。



 大きな村の邸宅――君の家だ――の庭に着地し、馬小屋へ向かう。

 そんな君に息をきらせて走ってくるのは使用人のヨンチョ。

「領主様、昼間にドワーフ村の連中が陳情に来ました! 丘トロールの連中が幅をきかせているので一発たのむ、だそうで」

 それを聞いて、君は頭の中でざっと考える。

 そいつらの平定に、騎士団から何人連れて行けば間に合うか‥‥と。



 当初は成り上がりの余所者に不信感をもっていた騎士達も、共に訓練して君の腕を見ているうちに認めざるをえなくなった。

 そして彼らを連れて、山賊、ゴブリンの群れ、オークの武装団、闇エルフの襲撃隊‥‥そんな領内のならず者どもを征伐しているうちに、天馬の騎手ペガサスライダーがこの国の守護神だと認めない者はいなくなった。

 いい歳の騎士団長も、そろそろ君に団長を譲ろうと直に相談に来たぐらいだ。



「やれやれ‥‥まぁ仕方がない。人様の面倒を見てやるっていうのも忙しいもんだな」

 そうは言うが、スターアローは嫌がっているどころか、君達を頼っている人々のために力をふるえる事をきっと喜んでいる。

 君にはこの唯一無二の相棒の気持ちぐらいはお見通しなのだ。



【fin】

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