#03 後味悪い別れ
アツコのことだけじゃなく成宮や桜庭のことも考えていたせいか、そわそわと落ち着かなくなって、庭に出て素振りをすることにした。
中3までずっと使ってた素振り用にウエイトを嵌め込んだバッドを両手で握って感触を確かめる。
素振りは毎日欠かさずしてるけど、いつもと違うバッドに懐かしさを感じる。
フォームを意識して、ひと振りひと振り丁寧に繰り返す。
真冬の寒空の下でも、10分もすると汗が噴き出して肌着を濡らした。
1時間ほど無心で続けると、母が昼ご飯が出来たと呼んだので、素振りは終了した。
昼ご飯を食べた後、汗びっしょりの服が気持ち悪かったのでシャワーを浴びて着替える。
そう言えば、アツコは何時に帰って来るんだろう。
帰宅すればおばさんから俺が訪ねてきたことを聞くだろうから、俺に会いにウチに来てくれるとは思うけど、何時に帰るとか細かいことは聞きづらくて、まぁ何とかなるだろうと流してしまった。
塾ってよく知らないけど、一日中ってことは無いよな?
朝から行ってるならお昼までとか?
なら、昼過ぎには帰ってくるのかな。
と、素振りしてる間は落ち着いてたのに、ジッとしてると気持ちは相変わらず落ち着かなかった。
結局、アツコが俺に会いに来てくれたのは、夜の7時を過ぎていた。
久しぶりに会うアツコにドキドキしながら玄関で出迎えて、部屋に上がる様に言うと「直ぐに帰るから、外で話したい」と言う。
俺んちの前にある電柱の明かりの下で話を聞くことにしたら、アツコの話は別れ話だった。
離れてる間に、別に好きな男が出来たんだと。
塾のバイト講師で私立大学の2年生なんだと。
今日も午前中は塾行って、午後はそのままソイツのアパートで二人で過ごしてたんだと。
昨日もそうだったんだと。
冬休みは毎日そうなんだと。
ムカついたからアツコをその場に置き去りにして、アツコの家までダッシュした。
俺の目的が分かったのかアツコも俺を追いかけてきたが、色ボケした女子高生が毎日走り込んでる名門野球部のレギュラーに追いつけるわけない。
ひと足先にアツコの家に着いた俺は「おじさーん!おばさーん!」と叫びながら玄関開けて、アツコがやってくる前に「アツコの塾のバイト講師がアツコに手を出してるんだって!塾辞めさせた方がいいよ!」とチクってやった。
遅れてやってきたアツコにおじさんとおばさんが「どういうこと!?お前、何しに塾行ってんだ!?」とか怒ってて、アツコも泣きわめいて「ひどい!」とか俺に向かって叫んでたけど、「お前のがひどいわ!バーカバーカ!」って言い返して帰って来た。
翌日の夕方、おばさんが一人でウチにやってきて、俺と母さんに向かって頭下げて、塾は辞めさせたって教えてくれた。
因みに、塾にクレーム入れたら浮気相手のバイト講師はその日のウチにクビなったらしい。
そりゃ、講師が生徒に手を出す塾とか噂広まったら生徒集まらなくなっちゃうだろうし、大ごとなんだろうな。
で、おばさんからは、「アツコのこと、これからもよろしくお願いできない?」って聞かれたけど、お断りした。
おばさんが言うには、高校に入ってからドンドン遊び惚ける様になって成績落ちてたから塾に入れたらこうなったんだって。
田舎育ちだから、隣の市とは言え地元よりも都会の高校に通う様になって、タガが外れたんだろうな。
だから、中学までみたいに俺が居れば、またまともに戻るんじゃないかって考えたらしい。
そもそもアツコ自身が色ボケ真っ最中だし、もしヨリ戻したとしても俺は野球中心なのは変わらないし、アツコがウチの学校の生徒ならまだしも、今までと同じ遠距離でなんて、とても安心して交際なんて出来ない。
って正直に話したら、おばさんも「確かに」って肩を落としてガックリしながら納得してた。
ウチの母親も、「甘やかしすぎたんじゃない?いっそのこと、ウチみたいに全寮制のスパルタ予備校にでも放り込んだら?」と本気なのか冗談なのかよく分からないアドバイスしてて、おばさんは更に泣きそうな顔をしてた。
ガキのころからアツコと俺はお互いの親からも可愛がられてたから、おばさんが凹んでる姿は心が痛んだけど、俺の方がキズついてるから、断る以外に選択肢は無かった。
ぶっちゃけ、アツコのことは凄くショックだったし、後悔や虚しさもハンパ無かったけど、涙は出なかった。
遠距離が決まった時点で、心のドコかでこうなる気がしてたのかもしれない。
中学時代のアツコは、俺との交際に凄く積極的だった。
エッチなこともそうだった。
そんなアツコが俺と遠距離になって、俺以外の男に目移りしたらどうなるかなんて想像に容易い。
ガチな名門野球部でスマホすら持ってない囚人みたいなヤツより、車とか持ってるお洒落な大学生とかのが良いに決まってるしな。
なるべくしてなったんだろうって諦めが、余計に虚しくさせる。
こうして、幼稚園の頃からの付き合いだったアツコとは、後味の悪い別れとなった。
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