#02 名門野球部




 俺とアツコは幼稚園から中学卒業までずっと一緒だった。

 小学5年の時にアツコから告白されてからは恋人になった。

 もう長い付き合いだし、恋人らしいことも一通り済ませてる。

 何も無い田舎だから、部活以外ですることってそんなことくらいしか無かったんだよな。


 けど、俺が強豪校からの誘いがあって、実家を出て寮に入ることになった為、県内とは言え遠距離恋愛になってしまった。

 しかも、寮では携帯電話やスマホにパソコン等全て禁止で、電話は公衆電話しか無い。


 アツコはスマホを持ってたから1年の時は公衆電話を使って何度か通話したけど、下級生の俺が恋人と電話なんてしてたら直ぐに先輩たちから「生意気だ」と目を付けられてしまい、電話代もバカにならなかったから公衆電話は使わない様になった。


 だから代わりに手紙を書く様にした。

 1年の頃は毎週書いて出した。

 最初の頃はアツコも毎週のように返事をくれてたけど、2年になってからは数は減っていた。

 手紙にも、大学に進学したいとか勉強が大変だとか書いてたから、『無理に返事を書かなくても大丈夫だよ』と俺の方から伝えたからだ。



 中学卒業したあと、入寮する日の朝、アツコはバス停まで見送りに来てくれた。


 最初は笑顔だったのにバスが来た途端泣き出してしまい、俺も泣きそうになるのをぐっと堪えて「絶対に甲子園に行くから!応援に来てくれ!」と言って、バスに乗った。


 バスの窓から見るアツコはずっと泣いてて、それでも俺に手を振って応援してくれてた。

 俺も泣くのを必死に我慢して手を振り返した。


 泣いたのはバスが走り出してアツコの姿が見えなくなってからだった。

 その時、絶対にレギュラーになって甲子園に行くと誓った。


 強豪校だけあって練習はきつかったし、上下関係も厳しくて辛い思いばかりしてたけど、アツコが見送りに来てくれた時のことを思い出して歯を食いしばって頑張って来た。


 そのお陰で、2年の夏には背番号が貰えた。

 外野手の補欠要員だったけど、80人を超える部員の中で背番号が貰えるのは一握りだし、しかも2年で貰えたのは二人だけだった。


 背番号が貰えた時は本当に嬉しくて、直ぐに手紙に書いてアツコに報告した。

 でもその年の夏の県予選ではベスト4どまりだった。


 そして3年が引退して俺はレギュラーになり、副キャプテンになった。



 ウチの野球部は、上位を占める部員のほとんどは我が強い。

 チームワークよりも個人の技量に走るきらいがある。

 俺も副キャプテンになるまではそうだった。

 それくらいじゃないとウチではレギュラーになるのは厳しい。


 そんなチームをまとめるのは想像以上に大変なことで、監督は好きな時に好きなことを言うだけで何もしてくれないし、代替わりしたばかりの頃は、キャプテンの成宮と俺、そしてチーフマネージャーの桜庭は重い重圧を感じながら日々の練習に取り組んでいた。



 成宮とは1年の時からお互いライバル意識を抱いていた。

 切磋琢磨と言えば聞こえがいいが、実際には『アイツよりも先にレギュラーに』と意地になってて、負けたくなかった。

 そんな俺と成宮は、背番号を貰った時も一緒だったし、ベンチ入りしてからの成績も似たり寄ったりで、一軍でのレギュラー入りも肩を並べてだったし、キャプテンと副キャプテンへの就任も一緒だった。


 格好付けた言い方するなら、ライバルとして負けたくないと思うと同時に、同じ学年で俺より上なのは成宮だけだと認めてもいた。

 だから、切磋琢磨と言うよりも、成宮に差を付けられない様に必死に追いかけていたというのが正解かもしれない。


 俺がレギュラー入り出来たのは成宮の存在があったからなのは間違いない。

 そんなことを成宮に向かって言ったことは無いけど、成宮のことを支える覚悟を持って副キャプテンを引き受けた。


 そして、チーフマネージャーの桜庭。

 桜庭とは部活だけでなくクラスも1年でも2年でも一緒で、勉強の苦手な俺はいつも桜庭に助けて貰っていた。

 ウチの高校は、特待生と言えども赤点を3つ以上取ると、補修が終わるまで部活動への参加が禁止される。

 俺は馬鹿だったし、中学までも野球しかしてこなかったから、誰かに助けて貰うしか無かった。


 だから俺にとって桜庭と同じクラスになれたのは、幸運だったと思う。

 桜庭も野球部のマネージャーになるくらいだから、とても面倒見が良いヤツで、俺が言わなくても試験の度に毎回桜庭の方から勉強の計画を立ててくれて、勉強の面倒を見てくれていた。


 ただ、逆に桜庭からも、他校の試合のデータ取りなどにはよく付き合わされた。

 本来マネージャーチームの仕事だけど、部員もよくお手伝いに駆り出される。

 それで桜庭は毎回俺を指名するから、他のレギュラーは普通は練習優先で断るけど、俺は桜庭に恩義を感じていたから、毎回断らずに同行していた。


 二人で他校の試合を偵察する時は、桜庭がスコアを付けて、俺がハンディカメラで撮影する。

 試合経過を見ながら所々気になったところをお互い意見を出し合ったりしつつ、仕事に集中する。


 けど、試合が終わり帰宅する時は、お互いリラックスして色んなことを話す。

 まぁ、学校では数少ない異性の友達ってのもあるし、1年の時からの仲間って意識もあるから、俺は桜庭と話す時間は好きだった。



 そんな桜庭が11月の終わり頃、期末試験の勉強をしてる最中に告白してきた。

 最初は冗談かと思って笑ってしまいそうになったけど、眉間に皺を寄せて淡々と語る様子に、「あ、コレはマジなヤツだ」と分かった。


 だから俺は、その場で謝り断った。

 俺には地元に彼女が居たし、そのことは1年の時から桜庭にも話してた。

 それに成宮が桜庭のことを好きなのも知っていた。

 成宮本人から聞いたわけじゃないけど、俺たちが幹部に就任して毎週やってる幹部ミーティングの時の態度で気付いた。


 桜庭とは、お互い今後も今まで通りの態度でいようってことで話し合って納得してもらえたが、俺自身はアツコのことを思い出していた。

 レギュラーになって副キャプテンにもなって、それまで以上に忙しい日々の中で、遠距離恋愛でしかも連絡の頻度が減っていたアツコのことを思い出す機会も減っていた。

 それが、桜庭との一件でアツコに会いたくなった。


 俺が我武者羅に頑張ってるのは、甲子園に出場してアツコに応援に来て貰う為だ。

 その目標を強く再認識した。


 だから、この冬休みの帰省で会えることを、かなり楽しみにしていた。






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