野球をするなら、こういう具合に

バネ屋

#01 寂しい帰郷




 高校2年の正月。

 丸1年ぶりの帰郷だ。


 野球推薦で県内の強豪校に入学して以来、寮生活をしながら練習に明け暮れていた。

 実家に帰省出来るのは正月だけで、お盆や春休みですら休みが無かった。


 JRで乗り換えを挟んで1時間、更にバスで30分。

 乗り換えの待ち時間を入れると同じ県内でも片道2時間はゆうにかかる。



 去年帰省した時は、俺が帰るのをバス停でアツコが出迎えてくれた。

 真冬の寒い中で申し訳なかったけど、9ヵ月ぶりの恋人との再会は、野球漬けの疲れを癒してくれた。


 今年も待っててくれるのかな。

 先週送った手紙には帰る予定は書いておいたけど、返事は無かった。


 スマホの類は寮では禁止なので、連絡手段は手紙か寮の公衆電話だけ。



 バス停に到着すると、父さんが出迎えてくれたが、アツコの姿は無かった。


 残念な気持ちはあったけど、父さんとも顔を会わせるのは一年ぶりなので、直ぐに気持ちは切り替わって、父さんと積もる話に花を咲かせながら、歩いて実家に帰った。



 実家では、母さんと兄貴が出迎えてくれた。

 1年ぶりに見る母さんはニコニコと笑顔で、俺の帰省を喜んでくれてるのが分かる。

 2つ上の兄貴は県外の大学に通うために一人暮らしてて、数日前に帰省しらしいが、髪が茶髪になってて驚いた。


 1年ぶりに家族4人揃っての団欒は父さんも母さんも饒舌で、兄貴や俺の学校や部活の様子ばかり質問していた。

 去年の4月に俺たち息子が二人とも同時に実家を離れてしまったから、父さんも母さんも寂しかったんだろう。


 食事の後はゆっくり休ませて貰うことになり、お風呂に入った後に自宅の電話でアツコに電話した。


 久しぶりに声を聞いて安心しつつ、実家に帰省したことを報告するが、今はお出かけ中とのことで今日は会えそうに無かった。


『そっか、ひと目だけでも顔見たかったけど、出かけてるなら仕方ないよな』


『ごめんね・・・』


『いや、俺こそ忙しい時に電話してごめん。じゃあ切るね』


『うん、またね』



 翌日の午前中、家でゴロゴロしながらテレビを見て暇つぶしをしてると、母さんから「アツコちゃんちにコレ届けて」とお裾分けを届けるお使いを頼まれた。


 田舎だし地元に居たときからこんなお使いはしょっちゅうだったので、「あいよ」と軽く引き受け、部屋着の上からダウンジャケットを着て、歩いてアツコの家に向かった。



 アツコの家は俺んちから歩いて5分もかからない近所だからすぐに到着して、玄関のインターホンを押すとおばさんが応対に出てくれた。


「これ、母から頼まれて」


「あら!?カナメくん帰ってたの!?」


「昨日帰りました」


「そうなの・・・あの子なんにも言ってなかったから」


「そうなんですか・・・それで、あの」


「ああ、アツコ、朝から塾に出掛けちゃったの。ごめんね」


「そうですか・・・また来ます」


「ええ、また遊びに来て頂戴ね」


「はい」



 アツコの通う塾は隣の市にあって、ここからバスを乗り継いで1時間はかかると聞いていた。


 まぁ年明け四日まではコッチに居るし、その内会えるよな。



 そう自分に言い聞かせて、家に帰ってまたゴロゴロしてたが、やっぱり暇すぎてアツコのことばかり考えてた。





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