第5話 異能
入学へ向けての準備を色々終えた俺は入学の日を迎えた。
こんな田舎の町から王都まで行くのに個人だと、1週間程かけて馬車を乗り継いで行くのだが、今回は王立異能学園が所有している馬車で迎えに来てくれるらしい。
40人だけとはいえ、全国各地にいる合格者に馬車を出してくれるなんて王家は太っ腹だな。まあこの国はかなり王家の力が強くて、税収もかなりあるだろうから、当然っちゃ当然なんだけどね。
「父上、母上!行ってきます!!」
「頑張るんだぞ!」
「しっかり野菜を食べるのよ!」
母上は俺のなんだと思っているんだ?俺は今まで野菜を残したことなんかないぞ?俺のことをほかの同世代の子と同じだと思っているのか……俺に前世があることに気がつかれていないことを喜べばいいのか、中身は大人なのに他の子どもと同じだということを悲しめばいいのか、どっちなんだろうな。
「では王立異能学園へ向かいますね」
必要な荷物を積み終え、ついに王都へ向けて出発した。御者を務めるのは王家御用達の商会傘下の傭兵グループの者らしい。流石王都でも有名な傭兵だ。物腰が柔らかいため接しやすいように見えるが、隙が全く無く、少しでも敵意を見せた瞬間に制圧されるだろうな。
「この馬車は高品質ですが、多少は揺れてしまいます。車酔いなどは大丈夫でしょうか?」
「もう少し揺れるくらいなら大丈夫そうです」
「なら大丈夫そうですね。もし気持ち悪くなったりしたら遠慮せず言ってください」
配慮がすごいな。傭兵はここまでしなければやっていけないのだろうか?それとも御用商会のグループ傘下だからだろうか。まあ後者だろうな。前者だった場合傭兵という職種に就ける者は圧倒的に少なくなってしまうからな。
馬車に乗り始めてから半日ほど経ったが、道自体はある程度は整っているため、揺れは少なくていいのだが、如何せん距離が長い。そのため俺のケツは早くも限界だった。
「少しですが、休みますか?」
御者は観察力も一流みたいだな。俺的には全然顔に出していないつもりだったのに気づかれてしまったから、観察力と気配りがすごいんだろうな。
ここで休んだところでまだまだ先は長いから、ここで我慢して慣れておいたほうが後々楽になるはずだ。
「ありがとうございます。でもまだ大丈夫なので気にしないで下さい」
「もしきつくなってダメそうでしたら、遠慮せず言ってください」
優しすぎる。仕事だからなのだろうが、惚れてしまいそうだ。まあ前世で、女性に簡単に惚れるのはダメだと身に染みているから、惚れることはないがな。今になって気付く者もいるだろうが、御者の彼女は女性なのだ。女性だからと言って何かあるわけではないが、勘違いしてそうな人が多そうだったのでな。
って俺はなに変なこと考えているんだ?小説の中じゃあるまいし、俺の動向を覗いている者なんかいないだろ。もしいたとしたら、そいつは俺をこの世界に連れてきた神様のような存在だろうな。
「すみませんが、1度止まりますね」
うっすらとだが、進行方向の先に土煙が立っているのが見えた。俺は見た事ないのだが、これが魔物の群れなんだろうな。
段々と近づいてきてその全貌が分かったが、きっとリザードと呼ばれる爬虫類のような魔物の一種だろう。
「魔物の討伐を行うので、馬車の中で待っていてください」
「はい分かりました」
ここで格上の戦闘が見れるのは運が良かったな。ここで目標となる人物を見つけておけば、これからの訓練でだいぶ有利に働く。
しかし俺の思惑は大きく外れてしまった。彼女の戦闘は一瞬で終わってしまった。彼女が手のひらをリザードの群れの方に向けた刹那、リザードたちは地面から真上へと吹いた突風に巻き上げられ、重力に従って地面に叩きつけられて絶命していた。
「ふう、お待たせしました。すぐに王都へと向かいましょう」
「……はい」
異能というものはあるとないとでは、天と地ほどの差があると言われている理由が分かったな。俺もパンチで風圧を生み出す程度なら出来るが、地面から上に向かって吹く上昇気流を発生させるのは、少なくとも今の俺には無理だ。
この人くらいの突風をただのパンチで発生させられるようにするのが、当分の目標にしておこう。
「では出発しますよ」
まだまだ長い王都までの道のりを進み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます