第4話 魔物の肉

 緊張しながら届けの封を切って、その中の紙を取りだした。その紙に書かれていたのは【王立異能学園】の6文字だった。


 俺はこの国最高峰の教育機関に合格したみたいだ。


「どうだったんだ?」


 この間に耐えきれなくなった父上が紙を覗いてきた。俺が王立異能学園に合格したのが信じられなかったのか、何度か目を擦っていたが、幻でないことが分かると大声を上げて喜んだ。


 母上も父上が喜んでいるのを見て結果が気になったのか、机の反対側から体を乗り出して紙を覗いてきた。母上も父上と同じように目を擦ってから、喜んだ。父上と違う点と言えば、声を上げるのではなく噛み締めるような喜び方をしていた。


「頑張ってたもんな!!」


「私たちでは修行をつけるのは難しかったから心配だったけど、受かってよかったわ」


「うん!」


 俺が受験生の上位40名に入ったことをここまで喜んでくれて、俺も嬉しかった。喜びと嬉しさで自然と涙が流れてきた。

 父上と母上ももらい泣きしたみたいで、俺たちは方を寄せあって泣いて喜んだ。


 俺の涙が止まり始めた頃、母上は昼食の準備を始めていた。元々どこの学園だろうと豪華な食事を作るつもりだったらしいが、王立異能学園となると普通の豪華な食事では良くないと思ったらしく、父上に食材を買いに行かせた。

 俺もついて行こうとしたのだが、流石に今日はダメと言われてしまった。

 やることがなく暇になった俺は一人で筋トレをしている。合格発表後すぐに筋トレをする俺を見て母上はどこか呆れているように見えたが、きっと俺の勘違いだろうな。優しい母上が俺の筋トレを見て呆れるわけがないからな。


「ただいま!買ってきたぞ……って今日も筋トレするのか?」


 ……仕方ないじゃん。生まれてこの方、俺がやってきたのは筋トレばかりなんだからさ。だから俺の趣味は筋トレになっちまったんだよ。だから呆れた目で見ないでくれ!


 まあ俺も自分の子供が王立異能学園に合格したことで嬉し泣きしていたのに、泣き止んですぐに筋トレを始めたらドン引く自信があるから、呆れられたところでなんとも思わないんだけどな。


「ありがとう。これがクリムゾンバイソンのお肉ね……焼きがいがありそうね!」


「えっ?く、クリムゾンバイソン!?」


「そうよ。クレインが奮発してくれたの」


 クリムゾンバイソンとはこの国にいる牛系で最上位クラスの魔物で、その値段は前世の国産和牛を優に超えるものとなっているらしい。

 

 そうなのだ。この世界では魔物が存在しており、人類共通の敵となっている。その発生源は異能を行使する際に使用しているとされている未知の元素が原因とされている。


「ありがとう父上!!」


「おう!気にしなくていいぞ。王立異能学園への入学はそれだけ凄いことだからな」


 そしてキッチンからのいい匂いに耐えながら、筋トレを続けた。


「完成したからランスも汗拭いて来なさーい」


「分かった」


 遂にクリムゾンバイソンのお肉を食べられるのか。前世の和牛ですら食べたことないのにそれ以上のお肉なんて想像が出来ないな。でも前世の珍味はそこまで美味しくないのに珍しいだけで高いってテレビでやっていたから、その可能性もあるのか……期待し過ぎるのはやめておこう。


「じゃあ食べるわよ」


 俺たちは唾を飲んだ。目の前に置かれたお肉は食欲を掻き立てるような匂いを発している。……はっ!


 俺は気付かないうちにヨダレが垂れていたみたいだ。慌てて口を拭って父上と母上の方を見てみたが、二人ともお肉に目を奪われていて気付かれてないみたいだ。


「いただきます」


 この国では食前にいただきますと言う文化がないので、小さな声でいただきますと言ってお肉にフォークを刺して口へと運んだ。


 一瞬意識が飛んでいたかと錯覚するほどの衝撃が脳内に走った。お肉を舌の上に載せた瞬間、お肉の旨味の詰まった肉汁が口の中に広がり、お肉そのものは溶けるように無くなった。何故か全裸になった自分が肉汁で洗われるようなイメージが頭の中に広がったが、自分の裸なんてキモイだけなのですぐに消した。


「すごく美味しい!!」


「レッドバイソンまでの肉なら喰ったことがあるが、比べ物にならないな」


「そうね。今まで食べてきたお肉とは比較するのがおこがましいほど圧倒的だったわ」


 体感時間はほんの一瞬だったが、あんなにあったお肉は消えてしまっていた。それは父上も母上も一緒で物足りなそうな顔で脂で光っているお皿を見つめていた。

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