第3話 異常な力

 俺が全力を出さなくなったのは、12、3歳の頃に全力でパンチを放つのを父上に止められてからだ。今になって考えてみれば、父上が俺を止めるのは当然の事だった。それまでの俺は全力でパンチをして、衝撃波を生み出して庭をボコボコにしていた。

 よくよく考えてみれば、パンチで衝撃波を出す時点で前世の人間を超えていることなど簡単に分かる事だ。そんなパンチに2、3年の修行をプラスしたら、すごい威力になるのは当然のことなのに……これがやる前に分かっていたら手加減していたのにな。


 俺の前に広がる惨状は酷いものだ。的は完全に消えてなくなり、俺から窓に向かっての地面が大きなクレーターかのように抉れていた。そして周りにいた受験生たちは一部を除いて衝撃波で吹き飛ばされていた。

 カイやルーベンのような実力者たちは衝撃波を自分の異能で相殺したみたいだな。


「……残りの受験者は気絶してしまったようだな。前例がないため確認をしてくる。少々待っていてくれ」


 気絶している者たちを含めた受験生を置いて、試験官であるはずのカイはどこかへ行ってしまった。

 やばいことになったかもしれないぞ……この世界でいい仕事に就くためにいい学園に入るのは必須なのに、学園に入ることすら危うくなってしまった。もし入学出来なかったら、ここまで育ててくれた父上と母上に見せる顔がない。


「試験が終わっていないものは後日再試験とする。終えたものたちは速やかに帰宅するように」


 他の人達にだいぶ迷惑かけてしまったな……もう終わってしまったことだし、考えるのは止めるか。俺が落ちるか受かるかは、国の教育機関のお偉いさん達次第だな。


「ただいま」


「お帰りなさい。共テどうだった?」


「実力だけで言えば負けはしないと思うけど……全力でパンチしたら、発生した衝撃波でかなりの受験生を気絶させちゃったから、やばいかもしれない」


 ……正直に言うか迷ったが、お世話になった母上に隠し事をするのは良くないと思ったので正直に言った。


「……やっぱりそうなっちゃったか。ごめんね。私たちが中途半端に力を制限させちゃった所為でそんなことになっちゃって」


「謝らないで。母上と父上のおかげでこの異能力を持たない僕もこんなに強くなれたんだから!!」


「……そうね。謝るのは違うわよね。お疲れ様」


「うん!」

 

 母上は優しかった。その優しさに触れて子供のような返事になってしまったが、今日だけは仕方ないことだろう。


 仕事から帰ってきた父上にも今日の顛末を伝えたのだが、父上は最初からお疲れ様と伝えてきた。これは社会人としての経験の差なのか?それとも母上が優し過ぎるだけなのか?今の俺には判断の仕様がないが、どちらにしてもお疲れ様の言葉は今の俺にとっては嬉しい言葉だ。


 そして3ヶ月の時を経て【異能力共通測定テスト結果届け】が家に届いた。

 今日届くことは分かっていたので父上は休みを取って家族全員で結果届けを見ることにした。


「開けるよ」


「「…」」


 この紙に自分が通うことになる学校名が書いてあるはずだ。せめて領都の学園に入れたらいいんだが……。


 緊張しながら届けの封を切って、その中の紙を取りだした。その紙に書かれていた文字は――



 ――教育省


「次はアルシウン領だが、やはりルーベン・アルベルトは流石の結果だな」


「……局長、現実から目をそらさないでください」


「だがなぁ……15歳で周りの人間を気絶させるほどの衝撃波を出すパンチを放つなんて前代未聞だぞ?」


 この国では異能力を詳しく調べる技術が無いため、この者達はランスロットが異能を持っていないことを知らないのだ。そのためこの者達はランスロットの異能について討論していた。


「やはり筋力増強系の異能ではないか?」


「ですが陸軍に所属している将校に筋力増強系の異能を持つ者もおりますが、そのものが後遺症を気にせず全力でやっても人を気絶させる衝撃波は生み出せませんよ」


「逆に衝撃波を生み出す異能なのかもしれないな」


「それなら納得出来ますが、それでも人を気絶させる威力を15歳の人間が出すのは前代未聞です」


 15歳は成長期であり、まだまだ発展途上の身体である。そんな人間が大人以上の力を持っていることは異常としか言いようがない。


「……まあ今年度は豊作だから、目立つことはないだろう。」


 今年度の受験生に異常と呼べる人間が多くいた。この国の転換点と呼べる時代が訪れようとしていた。


 

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